©︎『食文化・郷土料理がわかる 世界の国旗弁当』(誠文堂新光社)より
国旗のキャラ弁!? そのクオリティがスゴすぎた
世界220カ国の国旗のデザインをお弁当にしてしまうという、前代未聞なレシピ本が発売されました。
おお、それはすごい! と実際にその本を手に取ってみたら、その国旗弁当のクオリティが想像以上にすごかったのです。
▲『食文化・郷土料理がわかる 世界の国旗弁当』(誠文堂新光社)
国旗だけではなく、おかずには各国を象徴する動物などをモチーフにした可愛いキャラクター、そしてそこにはその国の食材や郷土料理が取り入れられていました。
国旗のディテールもすごく細かくて、「なぜ、そこまで?」と思ってしまうほどの作り込みです。
いったい、どんな人が、どんな情熱をもってこの本を作ったのだろう?
その疑問を解決するべく、著者の青木ゆり子さんにオンラインインタビューをお願いしました。
▲「国旗弁当&せかいのりょうり展」にて青木ゆり子さん(写真提供:青木ゆり子)
青木ゆり子さんは、世界の料理 総合情報サイト「e-food.jp」を主宰する各国・郷土料理研究家です。
世界や日本各地を取材し、背景にある歴史や文化とともに郷土料理を紹介しています。
また、郷土料理を中心とする多数の著書がある他、料理監修、コンサルタントなどでさまざまな「食のインバウンド対応」の現場に携わっています。
「食」で世界をつなげたい
▲「国旗弁当&せかいのりょうり展」会場の様子。展覧会は2021年7月7日(水)~8月25日(水)に新橋・ギャラリーてんにて開催された(提供:Gallery TEN)
──本当にすごい本だと思いました。まずは国旗弁当の本を作ろうと思ったきっかけを教えてください。
青木さん:料理って、言葉を超えて感動を分かち合えるのが素晴らしいなと思うんですよ。食の専門家として食で世界をつなげるような活動をしたいと思って、その一貫として国旗をモチーフにしたお弁当をいろいろと作り始めました。
──ここまでのクオリティのお弁当にするまでに、いろいろな試行錯誤があったのでは?
青木さん:そうです。何度か作り直したりして。そして、2020年に出版社に書籍の企画が通ったので、また改めて作り直し始めました。子どもたちにも食を通じて世界を知ってもらうきっかけになるよう、より親しみやすいものにしたいと思ったんです。そこで国旗だけではなく、キャラクターを添えた形で作り直し始めたのが2021年の初めくらいです。
▲「国旗弁当&せかいのりょうり展」会場(著者提供)
──一般的にはあまり知られていない国まで網羅されているのがすごいと思いました。
青木さん:展覧会で使用した大きなパネルに選んだ国も有名な国だからというわけではないんです。私の考えが、有名な国もそうでない国も分け隔てなく同じように尊重しましょう、ということなので。あと単純にデザインが気に入ったもの(笑)。他には出来栄えが良かったものや、可愛くできたものとか。
▲それぞれの国旗弁当のレシピの他に、さまざまな色味を出すための食材の説明のページもあります(『食文化・郷土料理がわかる 世界の国旗弁当』より)
──発売時期的に、夏休みの子ども向けということも考えましたか? 自由研究にも役に立ちそうだと思いました。
青木さん:そうですね。可愛い動物のキャラクターはもちろん、その国にちなんだ動物を入れています。「可愛い!」から始まって、面白いとか美味しそう、とか、この国どういう国なんだろう? って興味や親しみを持ってくれたらいいなと思っています。
本当は時間が許せば全部の国にキャラクターを入れたかったんですが。その代わりにお花、その国の国花を入れたりもしています。その国の可愛い、きれいなものを目立つところにおきました。
──食材もその国にちなんだものを使っていますよね。
青木さん:そうです。できるだけその国の食材、郷土料理を取り入れています。作っていく過程で自然にその国のことがわかっていくといいなと思って。
「お弁当」という日本文化を世界に発信できる
▲1ページに1つの国旗弁当。代表的な郷土料理のレシピも載っています(『食文化・郷土料理がわかる 世界の国旗弁当』より)
──いろいろな国を知るための良いきっかけになりますよね。
青木さん:そうですね。それで世界の国を知ってもらえるといいと思います。あと、これはけっこう大変な作業だったのでぜひ書いていただきたいんですが、各国の切手もできるだけ集めて載せているんです。それぞれの国の特色が表れていて、可愛いし面白いので。
──この本をきっかけに、日本のお弁当文化を知る外国の方もいそうですよね。
青木さん:そうなんです。展覧会には日本のキャラ弁を研究している外国人の方もいらっしゃいました。お弁当文化やキャラ弁なども含めて、こんなクリエイティブな食べ物の様式というものは他の国にはないものなので。日本のお弁当文化を世界に発信していく足掛かりになると思います。
──実際に外国の方からの反響はありましたか?
青木さん:はい。この本を大使館の方に送ったらすごく喜んでいただけたんです。例えば、パキスタン、セルビア等の大使や、キャラ弁を研究されているイスラエル人の方がご来場くださったり、ジョージアの大使は直接私のFacebookページに書き込みしてくださったり。そういうのはとても嬉しいですね。
その国の伝統文化を日本人の私が日本人的な感覚で作るということを、その国の方々が喜んでくれると嬉しいです。また読者の方々にもこの本を国際交流の足掛かりにしてもらえると嬉しいですね。
──反響が大きかったのですね。
青木さん:もともと、スポーツの大会で海外のお客さんを招待する際のホストタウン事業に関わっていたときに、自治体が相手国の選手をもてなすためのお弁当を振る舞っていたんです。その時のメニューのヒントとして、その国の国旗の色を使うと良いとか、そういったアイデアを自治体に提供していました。例えばイタリアなんかだと簡単な3色で再現できると思いますが、いくつかは自治体の方でも実際に採用してくださったようです。
意外と小さいお弁当箱
国旗とおかずが詰め込まれているお弁当箱。
細工が細かいので結構大きなものかと思っていましたが、実物は意外にコンパクト。女性の手のひらに乗るくらいです。
▲秋田県湯沢市の名産品・川連漆器のお弁当箱(写真提供:青木ゆり子)
青木さん:このお弁当箱を実際見てもらうとわかるのですが、16x11cm程と意外と小さいんですよ。展示会場にいらしたみなさんは、「こんなにちっちゃいの!?」って驚かれていました。
この中にあれだけ細かくおかずを詰め込んでいたんだと思うと、さらに感動が大きくなります。
さて、それでは国旗弁当を紹介していただきましょう。国旗弁当の中の郷土料理の主なものは、本に詳しいレシピが載っています。
50州を表す50の星を正確に再現! アメリカ弁当
なんと、星条旗の星が実物どおりに再現されていました。
青木さん:50の星は州の数なんですが、あれを全部入れたっていうのが私のこだわりです(笑)。国旗を作るのに使うのは食材なので無理なところもあるのですが、国旗は神聖な、大切なものなので、なるべく本物と同じにしたいと思いました。
アメリカ合衆国
©︎『食文化・郷土料理がわかる 世界の国旗弁当』(誠文堂新光社)より
青木さん:アメリカ料理は、まずマッケンチーズ(マカロニ&チーズ)、ステーキ。フライドグリーントマトという南部料理があるので、ここではフライにはしていないんですけど小さいグリーントマト、あとサボテン型のクッキー。サボテンは西部劇のイメージです(笑)。りんごは(アメリカ大陸の)荒野の開拓時代にりんごの種を蒔いた人物がいて、開拓者精神の象徴とされる、という話があって。
国旗部分の星がすごく大変で、ピンセットと竹串で並べました。星はお菓子の材料です。下はアメリカの主食ということでパン、赤いのはパプリカです。黒いのはブルーベリーゼリー。キャラクターはラッコです。
──ラッコなんですね。うさぎかと思ってました(笑)。
青木さん:野生のラッコがカリフォルニアの沖合に生息しており、国鳥のハクトウワシ等よりもキャラクターにしやすかったので。アメリカ=ラッコというイメージは一般的にないかもしれませんが。
ウーパールーパーが棲んでいる、メキシコ弁当
青木さん:例えば、ウーパールーパーも、正式名はメキシコサンショウウオというんですね。メキシコ原産だというのはあまり知られていないと思います。
メキシコ合衆国
©︎『食文化・郷土料理がわかる 世界の国旗弁当』(誠文堂新光社)より
──ウーパールーパー、プニプニですごく可愛らしいです。
青木さん:ウーパールーパーのあのプニプニ感は葛饅頭です。葛粉を練って作るとあのプニプニ感が出るんです。ピンク色はメキシコ原産のドラゴンフルーツです。あと豆料理とトルティーヤチップス。ウーパールーパーの下にあるのはモレというチョコレートソースをお肉にまぶして白胡麻を振ったものです。国旗は下にパンで、アボカドのディップであるワカモレとチーズとトマトです。
これなら再現できるかも!? イタリア弁当
国旗弁当の中でも一番日本人に親しみのある料理のひとつで再現が簡単そうだと思ったのがこのイタリアです。
イタリア共和国
©︎『食文化・郷土料理がわかる 世界の国旗弁当』(誠文堂新光社)より
──普通に普段から食べている料理でも国旗弁当ができるという見本ですね。
青木さん:はい。イタリアは再現が簡単ですね。国旗は3色のパスタ。ジェノベーゼ、オリーブオイル&塩、トマトソース。おかずはカプレーゼと魚介のフライパン焼き等です。アンチョビとオリーブの実は市販のものですし。
動物がいっぱいで楽しい! ケニア弁当
ケニアといえば動物、というイメージ。可愛いお弁当です。
ケニア共和国
©︎『食文化・郷土料理がわかる 世界の国旗弁当』(誠文堂新光社)より
──動物がいっぱいで子どもと作ると楽しそうです。
青木さん:ですね。ケニアは動物いっぱいです。クッキー型を使っているので簡単ですよ。ゾウは大根、キリンはアボカド、ダチョウはパパイヤ。この通りじゃなくていいので、色がかぶらないようにその時にある野菜で作ればいいと思います。キャラクターには他にもクッキー型を色々利用しています。
100円ショップにも売っているし、通販も利用しています。丸いのはイリオという名の料理で、マッシュポテトで簡単に作れます。鶏の手羽元はソースにつけて焼いただけです。
国名の由来はカバ、マリ弁当
マリの言語バンバラ語では「カバ」は国名と同音異義語。カバはマリの国民的マスコットだそうです。
マリ共和国
©︎『食文化・郷土料理がわかる 世界の国旗弁当』(誠文堂新光社)より
青木さん:マリといえばカバです。カバはソーセージでわりと簡単に作れます。それと牛肉のピーナッツシチューのマフェ。マフェは日本人には馴染みのない料理かもしれませんけど、本にレシピが載っています。マリはカバとピーナッツ栽培で知られている国です。国旗はロメインレタスとパプリカとトマトピューレをご飯の上にのせています。
いつもどこかに羊、モンゴル弁当
モンゴルといえば羊です。モンゴルの風景写真には羊。モンゴル料理にも羊。ということで羊がいっぱいなお弁当です。
モンゴル国
©︎『食文化・郷土料理がわかる 世界の国旗弁当』(誠文堂新光社)より
青木さん:モンゴルは可愛くて子ども向けな感じですね。羊のキャラクターはボーズというモンゴル名物の餃子を使っていますが、普通の餃子でもいいと思います。
小麦粉を練って作った角(つの)をつけて、スライスチーズにのりで顔をつけるだけ。のり用カッターは100円ショップにもあります。さらにチャンスン・マハという羊の塩茹で。国旗の青い部分はバタフライピーという食用色素で色づけした玉子焼き。再現はしやすいかも。
鮮烈な赤が印象的なペルー弁当
ペルー料理は日本ではあまり親しみがないかもしれませんが、繊細で美味しいことで世界的に有名です。
ペルー共和国
©︎『食文化・郷土料理がわかる 世界の国旗弁当』(誠文堂新光社)より
──ペルー料理は個人的に大好きなので、これはぜひ紹介したいと思いました(笑)。
青木さん:ペルーの国旗は簡単です。ご飯にトマトのせただけ(笑)。キャラクターはリャマ。大根です。リャマの下のおかずはロモ・サルタード、牛肉やポテトの炒め物です。あとはペルーのポテトサラダ、カウサ・レジェーナ。これはレシピを載せているのでそのとおりに作ればそんなに難しくないです。あとは唐辛子とジャイアントコーン。どちらもペルーの代表的な食材です。
豚肉が大好き! セルビア弁当
セルビアでは豚肉がよく食べられています。夏には各地で豚の丸焼きが並ぶ豪快なバーベキューが行われます。郊外だと一家に一台丸焼きの道具があるという話も。
セルビア共和国
©︎『食文化・郷土料理がわかる 世界の国旗弁当』(誠文堂新光社)より
──日本で、セルビアについて詳しく知っている人は少ないと思います。
青木さん:セルビアは私が個人的に好きな国なんです。豚の丸焼きが出るセルビアのお祭りに行ったこともあります。 おかずは豚肉料理2種。キャラクターも豚さんです。国旗はラズベリーとブルーベリーと白チーズ。
ラズベリーはセルビア産の冷凍品です。セルビアは世界トップクラスのラズベリーの生産国で、すごい美味しいんですよ。内陸で寒暖差が激しいので、農作物の味が濃いんです。冷凍品は業務用のスーパーでよく売っているので、見つけたらぜひ。
──紋章の部分はかなり凝ってますね。
青木さん:紋章はかなり難しかったんですけど一生懸命作りました。丸い銀色はアラザンというお菓子の材料。キャビアの粒も使いました。ランプフィッシュのキャビアなので安いのですが。なるべく忠実に再現しようと思いました。
こういう細い細工は作っているうちにだんだんお弁当っていうより工芸品みたいになってきちゃいます。どう作ろうか考えていて、夜中にハッ! と思いついたり、あ、違う! とか叫んだり(笑)。
制作に6時間もかかったイラン弁当
──1個作るのにどのくらいの時間かかっているのですか?
青木さん:まちまちなんですが、1番長かったのは6時間。実験とか考案の時間はまた別で、実際に作るのにかかった時間です。
──6時間も!? どれですか?
青木さん:イランです。国旗の真ん中の模様をサフランで作ったんですが、そのサフランがクセもので、手早く作業しないと黄色い色が下のご飯についちゃうんですよ。でもサフランは水で濡らして曲げないといけないので、どうしても黄色い汁が出るんです。
でも「ここは絶対にサフランにしてください」と、駐イラン日本大使館関係の友人が最初に言ってきたので、作るしかないと思ったんです(笑)。
イラン・イスラム共和国
©︎『食文化・郷土料理がわかる 世界の国旗弁当』(誠文堂新光社)より
──サフランはイランにとってそんなに大事なものなんですか?
青木さん:そうなんです。お料理にも使いますし、重要な農産物でもあります。国旗の緑はディルの炊き込みご飯、赤はザクロ。ザクロもイランの名産品ですね。これはシンプルなのですごく時間がかかっているようには見えませんね。
撮影も自分でしているので、それも手早くやらないといけないので大変なんです。もっと手間がかかったように見えるお弁当は他にあるかもしれませんが、実はこれが一番時間かかっています。
マーライオンが可愛い、シンガポール弁当
キャラクターものの中でも、目を引く可愛さのシンガポールのマーライオン。旅行に行ったときに記念写真を撮った思い出がある方もいるんじゃないでしょうか?
シンガポール共和国
©︎『食文化・郷土料理がわかる 世界の国旗弁当』(誠文堂新光社)より
青木さん:シンガポールのマーライオンは大根で、水の部分の水色はバタフライピーで色をつけています。水色はバタフライピーが便利ですよ。味も香りもほとんどなくて、発色がいいので。
マーライオンの横は海南鶏飯(ハイナンチーファン)の鶏肉部分。あと、シンガポール名物のカヤトーストと米麺の焼きそば。国旗のエビチリみたいなのはマレー系料理のエビのサンバル炒め。白いところは海南鶏飯のライス部分です。
国旗弁当を作ってみよう
国旗弁当には、一つひとつにその国らしさが詰め込まれています。
読者の皆さんも、まずはじっくり読んでみて、興味を持った、作れそうなものから作ってみてはいかがでしょうか?
使っている郷土料理にはそんなに難しいものはありません。
青木さん:別に、この本のとおりに作らなくていいと思うんです。色作りとか型抜きとかを参考にして、できる範囲で工夫して楽しんでいただければいいと思います。
本書には他にも、時短調理の方法や手に入りにくい材料の代替、キャラクター作りの参考になる国獣、国花などの一覧なども載っています。
興味を持った国についてじっくり読んで、オリジナルな国旗弁当を作るのも楽しそうです。
初めてのキャラ弁づくりが国旗弁当、というのもかっこいいと思いますよ。
書いた人:工藤真衣子
カメラマン。美しい人が好きなのでグラビア、音楽が好きなのでライブ写真、映画やドラマが好きなのでスチール写真、美味しい食べ物が好きなのでグルメ写真。雑誌、WEBなど各メディアで活動中。趣味は美味しい料理を作って食べること。子供写真スタジオ「アトリーチェ」の経営もしております。
からの記事と詳細 ( 世界220カ国の国旗をデザインした弁当をその国の料理&食材で作った「国旗弁当」がスゴすぎた - メシ通 )
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