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Sunday, December 13, 2020

【インタビュー】デジタルサックスが放つ、本当の魅力とは? | BARKS - BARKS


発売されるやいなや注文が殺到し、生産が追いつかないまま余儀なく販売停止状態となっているバカ売れ新商品がある。YDS-150と名付けられた、ヤマハから発売されたデジタルサックスだ。

デジタルサックスは、その名の通りデジタル技術を存分に投入しながらも、その吹き心地にはアコースティックな感覚が色濃く漂うという、サックスの作法を踏襲した全く新しい管楽器である。市場から渇望されていた待望の楽器であり、いきなりの品切れという事実こそが早々に高い評価を獲得している証なのだが、ヤマハはどのような設計思想を描き、この楽器を作り上げたのか。

伝統と格式に立脚した鍵盤楽器、管・弦・打楽器から最新テクノロジーを用いたデジタル楽器までを製造する総合楽器メーカーだからこそ、デジタルにできること/アナログだからできること…その特性を誰よりも理解していることだろう。彼らは、デジタルサックスをどのような楽器であるべきと考え、アコースティックサックスに何を足し、何を引き、何を変えず、何を刷新したのか。

デジタルサックスに何を求めたのか…本当の魅力を探るべく担当スタッフを直撃した。


──デジタルサックス、発売されるやいきなりの大ヒットですね。

小野洋平(ヤマハ株式会社 B&O事業部):デジタルサックスは、いつでもどこでも誰でもサックス演奏の楽しみを味わっていただきたいというのが商品開発のコンセプトです。管楽器演奏をもっと気軽に楽しんでいただきたいんです。

──「いつでも」「どこでも」「誰でも」という3ワードがキーポイントのようですね。

小野:管楽器って、場所や時間を選んでしまうんです。サックスはとても人気で、音楽教室で始められる方が多くいらっしゃいますけど、音量が大きいので、やはり自宅での演奏は難しいんですよね。

──確かに私も「サックスが吹ければカッコいいな」と思うんですけど、「難しそうだし、自分には無理」と、はなっから諦めています。

小野:そうですね、始める前にそのハードルの高さを感じてしまう人も多いんだと思うんです。

──そういう点で、小さな音で演奏できることこそデジタルサックスの最大の魅力ですか?

小野:「息を入れるだけで、演奏を楽しむことができる」これが重要なんです。管楽器ですので正しい指使いは必要ですけど、なにより管楽器で一番難しいのは音を作るところで、音をコントロールするところに長い時間がかかる。ですからデジタルサックスでは、息を吹き込んで指で押さえていただければそれだけで楽しめるように設計しました。音量が小さくできることが目的ではなく、それはどちらかというと手段のひとつなんです。

──敷居を低くしてくれた管楽器なんですね。

吉田つくし(株式会社ヤマハミュージックジャパン管弦打営業部):もちろんアコースティックのサックスも、教室に通ったりアンサンブルをしたりと誰にでも楽しんでいただける要素はあるんですけれど、デジタルサックスは「ひとりでいつでも楽しむこともできる」といった「楽器そのものの幅を広げる」「新たな楽器の楽しみ方を提供する」ものだと思っているんです。音が大きすぎるとかメンテナンスが大変とかアコースティック楽器のネガティブな面を補う楽器ではないんですよ。

──なるほど、サックスの楽しみ方をぐっと広げた新たな楽器であると。

宮崎裕(ヤマハ株式会社電子楽器開発部):私は「サックスの可能性を広げる」という言い方をしています。それこそリビングが発表の場になりステージもなり得るわけで、サックスが吹ける人であれば、リビングでぜひ演奏してほしいし、サックスの新しい楽しみ方をさがしてほしいですね。


──アコースティックサックスかデジタルサックスか、自分のスタイルに合わせて選択すればいいのかな。

宮崎:実は、企画当初は社内でもすごく議論を重ねました。すでにアコースティックサックス作っているヤマハが、サックスという名前を使ってデジタルサックスを出す限りは、その名に恥じないものださないといけない。

──分かる気がします。

宮崎:そういう点で、「サックスと名乗っていいのか?」も焦点でした。でも「サックスの楽しみって何なの?」と突き詰めていくと、研ぎ澄まされたテクニックを追求するための楽器ではなく「何を表現したいの?」に行き着く。つまりは音楽に尽きるんです。ですから、この楽器でもって音楽を表現することをしっかりと追求しましょう。つまりは「これはサックスなんです」と決着を見たわけです。

──デジタルサックスが当たり前になった未来、「そんなことで揉めたらしいよ」って笑い話になりそうですね。

宮崎:そうですね(笑)。電子ピアノも同じような道を歩んできたはずです。この楽器が今後どういう進化を遂げるかはわかりませんが、我々はサックスと置き換わるものではなく、並んで別にあるものと思っています。

──実は、管楽器経験ゼロな私なんですけど、吹いてみたらきちんと音が出てテンション爆上がりしました。

宮崎:それが一番嬉しい(笑)。

小野:何か曲を吹いてみました?

──ドレミファソラシドが分かったので「もろびとこぞりて」はもらったようなものですが(笑)、息で楽器をコントロールするというのが初経験なので、色んな発見がありそう。

小野:普段の呼吸と楽器を演奏する時の呼吸は、深さが違ったりしますよね。いつもよりも大きく吸って吐く、これによって楽器を自分の息で鳴らしている。そうすると楽器が体の一部になっているように感じられるんですよね。

宮崎:肉体と楽器の関係というか「一体感」というキーワードがデジタルサックスにはあります。楽器に搭載されている「ベル一体型アコースティック音響システム」を試作段階で鳴らしたら、手の中や、口の方にも振動や響きが伝わってくる。電子楽器なのにアコースティック楽器と同じような感覚が味わえたのが不思議な感覚でした。

──デジタルサックスの誕生は、ヤマハの楽器作りの歴史の中でもエポックメイキングなことですか?

宮崎:そもそもアコースティック楽器を作る組織と電子楽器を作る組織は全く別なんですけど、企画のスタートがアコースティック楽器で、設計が電子楽器で、生産が音響機器という3つの部署の連携によって誕生したので、そういう例は今回が初めてかもしれないですね。

──これからも楽しみですね。サックスに限らずいろんなデジタル楽器の誕生を楽しみにしています。

宮崎:まだまだやりたいこともたくさんありますけど、まだまだ成長していける証でもあると思うんです。新しい使い方を見つけて楽しんでくれたら嬉しいですね。

──見た目はサイバーなデジタルっぽさもありますけど、演奏体験は極めてアナログでとても楽しいです。

宮崎:普段の演奏時にはLED表示が自然に消えるように設計しました。表示を見ようと本体を傾けると自動的にLEDが付くようになっています。

──細かな心遣いが憎いなあ。


小野:サックスを楽しんでいただきたいというのが一番にありますので、音色の大部分をサックスに割り当てて、透明感のある綺麗な音色から甘いサウンドまで、その人のやりたいサックスの音楽表現ができる工夫もしました。あとはシンセサイザーのような音を少し入れることによって、サックスでは表現できないプラスアルファの音色を足していますから、いろいろな楽しみ方ができると思います。

──サックスに憧れていたけど手が出なかった…そういう潜在層にとって突如現れた救世主ですね。

宮崎:この楽器が何故誕生したかを改めて考えると、アコースティックサックスの表現力には追いつかないことをしっかり認めながら、「だけど、本当の楽しさは何?」というポイントをブレなく残せたことだと思っているんです。デジタルサックスは、新しい楽しみ方、新しい環境の適応ができる楽器なんです。

──今回の売り切れも、その魅力に気付いた人がいっぱいいたからかな。

宮崎:だといいですね。便利な楽器ではなく楽しい楽器なんです。中学や高校では吹奏楽部に入っていたとしても、最終的には辞めちゃった人ってすごく多くて、なぜ辞めちゃったのかを突き詰めて考えていくと「環境がない」というキーワードが出てくる。大きい音が出せない、仲間がいない。練習する時間がない。このように一度楽器をあきらめてしまった方にもまた楽器を手にとってもらうきっかけになってほしいです。

──おっしゃるとおりですね。

宮崎:元々「音楽嫌いです」とか「楽器嫌いです」っていう人は、そんなにいないと思うんです。でも練習が大変だったりして、「音楽が嫌い」「楽器が苦手」と錯覚してしまったのなら、この楽器は固まってしまった心をちょっと解かすようなことができるかもしれない。さらには身体上の理由で続けられなかった…例えば肺気胸で吹けなくなってしまった人でも、設定によってすごく少ない息で音を鳴らすこともできるんです。本体重量も軽くできていますから、楽器をやる上でのハードルを取りましょうというのが、企画のスタートなんです。「いつでも」「どこでも」「誰でも」の「誰でも」の中に、実はこのようなことも含んでいるんです。あまりストイックな考え方は似合わない楽器ですから、良い意味でおもちゃと捉えてもらって結構ですよ。レビュー動画/開封動画などでは、賛否両論あるので正直心が痛むこともありますけど(笑)、開封してすぐに吹いてレビューができる楽器ということはすごいことじゃないですか?って言いたい(笑)。

──ほんとですね。

宮崎:普通だったら何時間も練習してやっと曲が吹けてレビューできるところですから、そういう動画にもこの楽器のいいところが出ている気がします。

吉田:新しい楽器なので、賛否両論ありますが、発売時から多くの方に興味を持っていただけるのは本当にありがたいことだと思います。

──音も出ないからつまんない、そういう障壁を取り除くことで夢って広がるんですね。

小野:アコースティックサックスのマウスピースをコントロールすることは難しいです。でもこの楽器は息を入れてすぐ音が出ますから、音楽表現まですっといける。お子さんでも思いっきり吹き倒していろんな演奏ができると思います。



──音楽シーンで活躍されるのも楽しみです。

宮崎:本当にいろんなところで使って欲しいです。デジタルだから、サックスだからという言葉にとらわれずに、いろんなことに使って欲しいなと思います。

小野:「僕にも吹けた」「私にも吹けた」と、初めての方に広がっていくととても嬉しいですね。

──私ももう吹けた気になっていますから「サックス?俺吹けるよ」って言ってます(笑)。

小野:私たち、それがやりたかったんです(笑)。

宮崎:散歩するように楽器を吹いてもらえたらいいなと思います。この楽器の楽しみ方にいいも悪いもないんです。散歩の仕方が良い/悪いと評価する人なんかいないようにね。

──「お前の歩幅は間違ってる」なんて言われたくないですからね(笑)。

宮崎:それぐらい身近なもの。リビングで自分が好きなように、誰に何と言われようと楽譜通りじゃないとかリズムが少し狂ってようが、別に楽しめるからいいじゃないっていうのが究極です。

──楽器人口を増やしたい…ヤマハの思いそのものなんですね。ありがとうございました。


取材・文◎烏丸哲也(JMN統括編集長統括編集長)

ヤマハ デジタルサックスYDS-150
2020年11月20日(金)
オープンプライス


◆デジタルサックス・オフィシャルサイト

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