今回紹介するのは、見下ろし2D視点のパズルゲーム「Baba Is You」だ。ユニークなゲームシステムが話題を呼び、日本ゲーム大賞2020のゲームデザイナーズ大賞ほか、海外のゲームイベントでも多くの賞を獲得している。現在はSteamで販売中のほか、任天堂Switchでも購入が可能だ。
PCにおけるパズルゲームの歴史はかなり古く、「Lode Runner」のようにフィールド内の金塊を集めてゴールに向かうといったアクションを活かした物もあれば、「倉庫番」のように見下ろし視点でじっくり考えて倉庫内の荷物を所定の位置に移動する、といった物など多種多様だ。上から落ちてくるブロックをうまく並べてスコアを稼ぐ「Tetris」は落ち物パズルという新しいジャンルを確立した。
これらのパズルにはいずれも共通点がある。それはルールが予め決められているということだ。そもそも当たり前の話だが、ルールのないゲームは存在しないし、プレイヤーはルールを変えることはできない。
そんな当たり前に真っ向から立ち向かい、「ゲーム内のルールをゲームプレイ中に自分で変える」ことを新たな“ルール”にすることで新境地を開いた、革命的なパズルゲームが今回紹介する「Baba Is You」なのだ。プレイヤーの常識を簡単に覆す本作がどのようなパズルゲームなのか、早速プレイしてみよう。
本作のゲームのルールは非常にシンプルで、主人公の「BABA」をプレイヤー(YOU)が操作して、ステージごとの勝利条件(WIN)を満たしてクリアを目指す。ただこれだけだ。「BABA」は耳の生えた四足歩行の謎の白い動物で、シンプルなドット絵で表現されている。
画面は2D見下ろし視点で、ステージ内には川が流れていたり、壁や岩が置かれており、「BABA」の行く手を阻む。こうした理解しやすいオブジェクトとは別に明らかに異質なのは、文字の書かれた単語のオブジェクトだ。これらは縦横に密接して配置することで英文となっているのがわかる。例えば、「BABA」、「IS」、「YOU」の3つのオブジェクトは3つ並ぶことで「BABA IS YOU」(BABAはあなたです)となる。ほかにも「FLAG IS WIN」(旗は勝利)、「WALL IS STOP」(壁は停止)、「ROCK IS PUSH」(岩は押す)などのオブジェクトが確認できる。
この文字の書かれたオブジェクトを繋ぎ合わせた英文こそが、すべてこのステージ内の“ルール”なのだ。そして本作最大の肝であり、ユニークなポイントは、このルールの英文を構成する単語のオブジェクトを移動させることによって、自由にルールを変更できることだ。つまりはルールをプレイヤー(YOU)にとって都合のよい内容に変更することでステージクリアを目指すという、ルール改変自体をパズルのギミックとしている点が非常にユニークなポイントなのだ。
ちなみにこれらルールの文言はすべて英単語を使用しているが、英語が苦手でもあまり気にならない。むしろ縦横の並び方の方が重要で、上から下、または左から右へと、きちんと読める形で配置しないとルールが有効にならない点には注意が必要だ。
とにかくプレイしてみるのが手っ取り早いので早速プレイを開始してみる。設定は言語のほか、画面を揺らすなどの各種演出の調整が行なえる。ゲーム内のオブジェクトは英単語のままだが、メニュー画面などは日本語対応している。操作は上下左右のカーソル移動のみで、キーボード操作では「R」キーでステージの最初からリトライ、「Z」キーで1つ巻き戻しとなる。「Z」キーを連打することで、ステージ最初まで1ステップずつ戻すことも可能だ。
ゲーム開始すると簡素なオープニングムービーのあと、チュートリアルステージに入る。このステージでは中央に岩(ROCK)が3つ並び、上下には壁(WALL)があり、ここは抜けられない。岩は押す(PUSH)ことが可能で、岩を押してずらし、旗(FLAG)まで移動することでステージクリアとなる。
普通に画面上の情報だけで判断すると、上記のようなプレイになるが、この画面をよく見てみると、両端には壁が存在していないことが分かる。つまり壁の向こう側に回り込むことが可能になっているのだ。そのため、岩を押してよけなくても、壁を回り込んで旗に向かうこともできる。
また、ここでルールの改変を体験しておくことも重要だろう。例えばここで「WALL」の文字オブジェクトを上下に押してずらすと、この操作により、「WALL IS STOP」のルールが解除されるため、壁のすり抜けが可能になる。さらにそのまま「WALL」のオブジェクトを上の「BABA IS YOU」の「BABA」と入れ替えて「WALL IS YOU」にしてみる。すると画面内の壁全体がカーソル操作で動き出すのである。
勝利条件の「FLAG」を入れ替えることも可能だ。例えば「WALL」のオブジェクトをそのままFLAGと入れ替えて「WALL IS WIN」にすると、壁に触れたところでステージクリアとなる。このようにルールその物を変更することで、通常ならクリアできなさそうなステージであってもクリアできるようにするのが本作のポイントだ。
本作における注意点としては、通常は文字のみのオブジェクトが主語でこれを手前に置き、背景を塗りつぶしたオブジェクトは補語となっており、それらの間を繋ぐのは「IS」のみとなっている点だ。また「AND」を使うことで、複数のオブジェクトを同じ主語に指定したり、1つの主語に対して複数の補語を設定することもできる。そしてこれら文章は横並びでも縦並びでも成立するので、文章さえ成立していれば、縦横同時にルールが適用される。
また、ルールで指定されていないオブジェクトは触れたり押したりといった画面上の行動に何ら変化も制約ももたらさない存在になるが、ルールを策定する文字のオブジェクトに関してはいつでも押すことができ、「SINK」(沈む)の影響を受けて沈んだりする。一方で「DEFEAT」(敗北)はプレイヤー(YOU)以外が触れても何の影響も受けないなど、ルールの文言によってオブジェクトの影響の内容が異なる。
この辺りの明確になっていないゲーム上の仕組みについては、色々とトライアンドエラーで進めていくのがいいだろう。基本的なステージ内のルールはすべてステージ内に配置されており、そのステージで変更不可能なルールについてはどうやってもプレイヤーがたどり着けない位置に配置されていたりする。そのため、ステージ開始直後は変更可能なルールが何かを見極めるのが重要だ。
そして、ルール改変はオブジェクトが動いた瞬間に発生するということ。そのため、前述のような「WALL IS YOU」の文章を作る際に、こと前に「BABA」をずらしてしまうと、ずらした瞬間にゲームが続行不能になってしまう。プレイヤー(YOU)の存在がルール上、何物でもなくなってしまうからだ。この場合、Rキーでリトライするか、Zキーで1ステップ巻き戻すことで、ゲームを再開できる。プレイヤー(YOU)の対象を変更する場合のみ、主語の部分を1ステップで入れ替える必要がある点には注意が必要だ。
また、チュートリアルだけだと気が付きにくいが、本作では移動操作しか存在しないため、必然的に「引く」動作や「掴む」といった動作が行なえない。途中までプレイした中では、「PUSH」と「MOVE」という2つの動作に関するルールが存在しており、「PUSH」が策定されたオブジェクトは押すことで移動が可能となっているほか、「MOVE」が策定されたオブジェクトはこちらが1アクションするごとに、上下、または左右に移動を繰り返す。
以上のルールを踏まえた上で、本作のプレイを続けていると、このルール改変ありきでステージが作られているため、先ほどのチュートリアルのように、ルールを変えずにクリアするのは不可能なステージが続くし、段々とルール改変だけでは無理では? と思えるようなステージも出てくるようになる。
ところがオブジェクトの位置を変えつつ、その都度ルールを変えていくことで、少しずつ目的に近づくこともあり、こうしたクリアに向けて少しずつ詰めていく作業がとても気持ちいい。
本作はとにかく色々やれることをやってみて、ダメならステップ単位で巻き戻しながら、ほかにやれそうなことを探す、といったアクションで大抵クリアできる。最初のうちは選択するステージに限りがあるが、後半になってくると、1つのステージに固執しなくても、気分転換に別のステージに挑戦するといったことが可能になるので、ストレスは大分軽減されていくだろう。
ステージ選択はマップ画面からいきたいステージを選択する形式で、ステージをクリアすることで、新たなステージが解放されていく。ステージクリア時に獲得できる「タンポポの綿毛」を複数集めることで、花が1輪手に入るので、この花を複数集めることで解放されるステージなどもある。ステージにはそれぞれテーマが用意されており、ステージ選択時に確認できる。
プレイしていくとわかるが、本作はとにかくステージをガンガン進めたくなるユニークな仕掛けがてんこ盛りだ。特にオブジェクトやルールの種類がどんどん増えていくのが面白い。「湖」のステージは、水棲生物や水にまつわるオブジェクトやルールが発生するようになる。例えば湖最初のステージ「冷たい水」では、「FLAG IS WIN」、「JELLY IS SINK」、「WALL IS STOP」の3つのルールが固定な上に、中央下部にある「BABA IS YOU AND SINK」のルールのみ変更できそうだ。また、画面中央には水が流れており、ここをそのままのルールで通過しようとするとSINKのルールが適用されて沈んでしまう。また川の中瀬にはWALLの文字オブジェクトがポツンと存在している。
こうなると変化できるのは中央のルール「BABA IS YOU AND SINK」のみのため、まずは「SINK」を解除。これにより水に沈む心配はなくなった。ところがここから先が難関だ。「BABA IS YOU AND WALL」にすると突如「BABA」が壁になってしまい、身動きが取れなくなってしまった。「BABA」が「WALL」に変化してしまったため、YOUに該当する「BABA」がいなくなってしまったからだ。
それなら「WALL IS YOU」をルール化しようと試みるが、この場合、「BABA」のオブジェクトと「WALL」を入れ替える方法がない。他にもANDを使ってルール改変を試すがどれもうまくいかない。そこでダメ元で「WALL」のオブジェクトをそのまま「JELLY」にぶつけてみたところ、バシュっとオブジェクトが沈んで、「JELLY」を1つ埋めることができた。これにより無ことFLAGに到達してステージがクリアできた。前述の説明で文字オブジェクトを沈めることができると書いたが、このステージをプレイしている時に気が付いたのだ。
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変更可能なルールが「BABA IS YOU AND SINK」のみ。変更不可のルールで「JELLY IS SINK」があるため、JELLYのどこかを埋めないとステージがクリアできないが、PUSHできるオブジェクトが存在しない。色々ルール改変を試みようとするが、どれもうまくいかないため、一か八かWALLの文字オブジェクトをそのまま「JELLY」にぶつけてみたところ
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見ことに「JELLY」に「WALL」の文字が沈んで埋められたため、FLAGに到達してクリアできた。川のオブジェクトについてのルールの記載がなかったり、文字オブジェクトの扱いの説明が不足しているなど、細かいツッコミどころは多数あるので、実際のトライアンドエラーは重要だ
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本作のユニークなところは同じようなオブジェクト構成のステージであっても、ルール1つ変わることで、攻略パターンも全く別の物に変化することだろう。分かりやすい例として、このステージはルールの文言オブジェクトを示す「TEXT」が「FLOAT」(浮遊)している。そのため、「ROCK IS PUSH」の文字オブジェクトを水に沈めて埋めることができない。このステージはそのまま岩を沈めて水を埋めることでクリアできる
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見た目はほぼ同じだが今度は「ROCK IS FLOAT」となっており、このルールにより岩が浮いているため、岩を使って水を埋められない。この場合は、「ROCK IS PUSH」の文字オブジェクトで水を埋めればクリアできる
後半になるとオブジェクトその物を変換するようなテクニックや、ルールの強調などのテクニックが必要になってくる。例えば「BABA IS CRAB」というルールが発生すると「BABA」は「CRAB」に変化してしまい、ステージ内のすべての「BABA」は「CRAB」になってしまう。そのため、もし「BABA IS YOU」のルールを変えていない場合、その時点でプレイヤーに該当するオブジェクトが不在となるため、これ以上ゲームが続行できなくなる。一方でこと前に「CRAB IS YOU」のルールが存在していれば、複数のCRABが同時に動かせるようになるため、「SINK」や「DEFEAT」などに衝突してオブジェクトが消滅したとしても衝突していないオブジェクトが生き残るようになる。
また、「BABA IS CRAB」のルールを発生させる前の段階で「BABA IS BABA」というルールを用意している場合、あとから「BABA IS CRAB」のルールを策定しても、先に設定した「BABA IS BABA」が優先になるため、BABAはCRABに変わらずにゲームが続けられる。こうした発想の転換がステージを進めるごとに必要になってくる。
本作は非常にシンプルなルールながら、ゲームの可能性がまだまだ無限大であることを改めて再認識させられたタイトルだ。文字のオブジェクトを使ってステージ内のルールを決めるというアイディアは、これまでにもありそうなちょっとしたアイディアだが、今まで世に出ていなかったか、またはアイディアをうまく形にできていなかったか、普及させられなかったわけで、このような埋もれたアイディアがまだまだゲームの世界にはたくさんあるのではないかと、可能性を感じさせられる。
個人的にちょっと気になるのは煮詰まった時に気分転換でもう少し色んなステージにいける仕掛けがあってもよかったように感じた。本作の場合、オブジェクトの配置を閃かなければどんなに長くプレイしていても前に進めなくなる場合もある。このような時に別のステージをプレイして発想を転換できる仕掛けがもう少し多ければ、よりハマる可能性が高かったと思う。
シンプルなルールながら奥が深い本作は普段あまりゲームなどプレイしない層であっても気軽にプレイできるライトな内容になっている。是非仕ことの合間などでプレイして発想の転換をしてみてはいかがだろうか。
なお、動作環境については今回も非常にライトな1本となっている。そのため、ゲーミングPCなどの環境がなくても手元のノートPCなどを使って手軽にプレイできる。今回は「ThinkPad X1 Nano」を使ってフレームレートや負荷などを計測したが、フレームレートは常時60fpsを維持、CPU負荷は常時20%前後をキープ、GPU負荷についても30%未満を維持するなど、ほとんど負荷が発生せず、快適にプレイできたので、少し前の世代のCPUを搭載したノートPCでも軽快に動作すると思われる。
スペック要件(最低)
OS:Windows 7CPU:2.0GHz以上、32bitからOK
RAM:1GB
GPU:NVIDIA GeForce 6600 GT/AMD Radeon X1300/Intel HD 3000以上
ストレージ:200MB
サウンドカード: Intel High Definition Audio
今回プレイした環境
CPU:Core i7-1160G7RAM:DDR4 16GB
GPU:Intel Iris Xe Graphics
ストレージ:256GB SSD(NVMe/PCIe)
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