人には間違われるのに、蚊をはじめとする虫たちには間違われない。O型はなぜか蚊に狙われる。蚊に刺されやすいかどうかは血液型には無関係で、足の裏の菌が多いかどうかによる──という話を聞き、アルコールティッシュで足の裏を拭いてから作業をしたこともあったが、やはり私と、ほかのO型の人間がロックオンされた。
相馬野馬追で、今年も小高郷の蒔田保夫さんの馬の世話を、蒔田さんの友人の武田昌英さんがしていた。血液型はO。お酒が大好きで、とても楽しい人だ。それはいいのだが、雲雀ヶ原祭場地で会った武田さんは半ズボン姿で、両脚が上から下までびっしり、虫に刺されて腫れ上がっていた。
「武田さん、脚、大丈夫ですか」
「うん。昨日の夕方、この格好で馬の手入れしてたら、やられちゃってさ。大将(小高郷侍大将の今村忠二さん)に、『半ズボンで馬の世話するやづがいっか』って怒られたよ」
今思うと、武田さんは、それに懲りず祭場地でも半ズボンを穿いていたわけだ。
そのへんもO型らしいが、半ズボンで草地にいれば、誰でも虫に狙われるような気がする。
さて、今年の相馬野馬追は、コロナ禍による縮小開催を経て3年ぶりに通常開催されたことで話題になっていた。
もうひとつ、担い手の騎馬武者たちにとって、非常に大きな変化があった。
それは、「今年から馬上では禁酒」という通達がなされたことである。
コロナの感染拡大防止のためだという。
「今年は」なのか、「今年から」なのか確認したところ、「今年から」だという。つまり、コロナが収束してからも、騎馬武者は馬上で飲酒してはいけない、という規則に縛られつづけるわけだ。
もともと馬は軽車両なので、道路交通法上、飲酒して乗ってはいけないのだが、野馬追は一般の交通を遮断し、閉ざされた空間で行われるので、その限りではない。細かいことを言うと、その前後の移動などで酒気帯び運転になってしまう可能性がないとは言えないのだが、祭で御神酒が禁止というのは、下戸の私でもどうなのかな、と思ってしまう。
この通達にはおかしなところがあって、馬上では禁酒だが、下馬しているときは飲んでも構わないという。となると、見た目の印象や、イメージを優先しての通達と取られかねない。
前出の今村さんに「この問題を、全世界に向けて発信してください」と言われていたことを、武田さんの虫刺されについて書いているうちに思い出した。
──忠一アンニャ、これで世界中に野馬追の禁酒令が知れ渡りますぜ。
「アンニャ」は相馬弁で「兄貴」という意味である。
今年の野馬追では、初日に自身のツイッターで所在が明らかになったブラックホールが話題になっていた。ツイッターのトレンドワードになったほどだ。
ブラックホールは2019年の札幌2歳ステークスを勝ち、ゴールドシップの産駒として初の重賞制覇を達成した。
ゴールドシップも札幌2歳ステークスに出走しており、2011年に2着だった。勝ったのはグランデッツァ。
ゴールドシップの産駒は、ブラックホールのほか、産駒としてGI初制覇を遂げたオークス馬ユーバーレーベン、去年の目黒記念を勝ったウインキートス、今年のマーメイドステークスを制したウインマイティーなど、何頭も活躍している。
札幌2歳ステークスのほか、ラジオNIKKEI杯、皐月賞、ダービーでゴールドシップと激突したグランデッツァの産駒はどうかと調べてみたら、そのうちの1頭、金沢で走っている4歳牡馬ナムラロクローの現在のオーナーが前田敏文さんなので、驚いた。
前田さんは相馬野馬追の中ノ郷の騎馬武者で、本稿でも2019年に自身の所有馬ウップスアデイジイで出陣したときに紹介したことのある人だ。金沢で6連勝中のトウショウドラフタ、去年から今年にかけて盛岡と船橋で7連勝したメイショウタニカゼのオーナーでもある。
その前田さんに、ナムラロクローを野馬追に出したことがあるかどうか問い合わせたところ、ないとのことだった。
それでも、現役時代に鎬を削ったゴールドシップとグランデッツァの産駒が、相馬野馬追を通じて、こんなふうにつながっているのは面白いな、と思った。
今週はリモートの講演会がある。そこでも相馬野馬追について話す予定だ。楽しんでもらえるよう頑張りたい。
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