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Tuesday, October 4, 2022

スイスの映像作家が描く、伝統とモダンが入り混じる「Tokyo」のイメージとは? 2022年ショートショート フィルムフェスティバル & アジア 「Cinematic Tokyo」部門優秀賞受賞作の裏側 - コンテスト 公募 コンペ の[登竜門] - ジャパンデザインネット

雨が降りしきるなか、ひとり残業に勤しむサラリーマン。鳴り止むことのない雨はやがて東京の街全体を覆い、主人公はビルの屋上からの脱出を試みる。街中に立ち昇る黒煙、突如登場する巨大なクジラ、これは現実なのか、それとも――。

実写とCGを組み合わせたモノクロの映像で、東京で働くサラリーマンのもとに訪れる悲劇を描く『Tokyo Rain』。スイス・チューリッヒで活動するふたりのクリエイターによって生み出された本作は、2022年度の「ショートショート フィルムフェスティバル & アジア 2022(以下、SSFF & ASIA)」内「Cinematic Tokyo」部門にて、優秀賞および東京都知事賞に輝いた。日本とは遠く離れたチューリッヒで暮らすクリエイターが、なぜ「東京」をモチーフに作品を制作したのか?プロデューサーのロブ・シュナイダーさんと映像作家のミシェル・ワイルドさんに、本作の制作プロセスや、応募のきっかけについてうかがった。

独自の作風を生んだ多様なキャリア

––おふたりの経歴をそれぞれ教えてください。

ロブ・シュナイダーさん(以下、シュナイダー):私はフロントエンドエンジニアとして10年以上のキャリアがあり、同時に映画制作と撮影に没頭してきました。私の会社「manual」では、グラフィックデザインやWebデザインに加えて、企業のイメージ映像やドキュメンタリーも制作しており、ミシェルとは一緒に仕事もしています。

私たちが最初に制作したショートフィルム『Hunger』では、チューリッヒで有名な「モバイルショートフィルムフェスティバル」で受賞することができました。『Tokyo Rain』と同様日本がモチーフとなっており、私の子ども部屋で撮影した作品です。

2022年ショートショート フィルムフェスティバル & アジア 「Cinematic Tokyo」部門優秀賞 作家ロブ・シュナイダー

ロブ・シュナイダー

ミシェル・ワイルドさん(以下、ワイルド):私はイラストレーター、漫画、ミュージシャン、フィルムメイカーとして活動しています。『Tokyo Rain』では、脚本、美術監督、音楽、舞台美術、編集、監督を担当しています。

2022年ショートショート フィルムフェスティバル & アジア 「Cinematic Tokyo」部門優秀賞 作家ミシェル・ワイルド

ミシェル・ワイルド

私は9歳から漫画を描きはじめ、その頃からアニメーションもつくっていました。ポップミュージックを演奏するバンドでボーカルとギターを担当していたこともあります。さまざまなスタイルのデバイスを使用してストーリーを語ることが好きで、これまでにもショートフィルムやアニメーション、ミュージックビデオ、商業用ビデオを制作してきました。

キャリアとしてはグラフィックデザイナーの経験を積み、仕事を通じて映像制作の道が開けたことから、さまざまな映像編集やVFXを学びました。とりわけ低予算の作品では、これまでのノウハウを自然と活かすことができるので、ひとつの作品の中で複数の役割を担うことに楽しさを感じています。

チューリッヒで「Tokyo」を表現する、実写とCGによる映像制作

2022年ショートショート フィルムフェスティバル & アジア 「Cinematic Tokyo」部門優秀賞『Tokyo Rain』メインイメージ

SSFF & ASIA 2022 Cinematic Tokyo部門で優秀賞/東京都知事賞を受賞した『Tokyo Rain』

––『Tokyo Rain』は、実写とCGアニメーションが一体となった独特な映像が魅力です。この手法で制作された経緯を教えてください。

ワイルド:本作の制作はストーリーを起点としてスタートしました。そこから、ストーリーのシュールリアリスティックな雰囲気を際立たせるために、モノクロの映像にすることや、CGやストップモーション、実写といったさまざまな手法を用いることを決めていきました。その後、映画全体のストーリーボードとなる絵コンテとアニメーションを制作してから、撮影に臨んでいます。

––実写パートの撮影はどのように行われたのでしょうか?

ワイルド:雨が降る中での屋上のシーンは、チューリッヒのビルの屋上で実際に撮影しています。巨大なグリーンバックを用意して、芝生用のスプリンクラーで雨を降らし、CGでも雨を追加しています。主人公が組み立てる筏(いかだ)も、ドラム缶と縄を使って役者が実際に組み立てているんです。

主人公が勤める会社のオフィスの撮影場所もすぐに見つかったので、そのほかにCGで制作する必要があったのは、さまざまな小道具と、劇中に登場する日本語の文字でした。ちなみにオフィス内の自動販売機は段ボールでつくっています(笑)。

2022年ショートショート フィルムフェスティバル & アジア 「Cinematic Tokyo」部門優秀賞『TOKYO RAIN』劇中

『Tokyo Rain』のワンシーン。漢字が印象的に使用されており、画面中央の自動販売機は段ボールで制作されているそう。

––かなりのカット数でVFXを制作されていますが、苦労したシーンや、仕上がりに満足しているところを教えていただけますか?

ワイルド:全体的にとても手の込んだVFXを制作しています。たとえば終盤で登場する宇宙船は、おもちゃの飛行機や組み立て式の宇宙船のパーツを使ったお手製のものをデジタル化し、シーンの中に組み込んでいます。クジラはおもちゃのフィギュアを撮影したものと、CGで制作したモデルを必要に応じて組み合わせました。もっとも大変だったのは屋上のシーンですね。雨やCGで制作したビル、忙しなく動き回るカメラワークをまとめるのは一苦労でした。

お気に入りのシーンのひとつは、主人公のマサヒロが水に浮かぶ全身のショットです。撮影では、役者がグリーンスクリーンの上に横たわり、リーフブロワー*を使って、髪の毛や服をなびかせています。スローモーションで撮影していて、水と空気の泡をCGで追加することで、役者が実際に水に浮いているように見せました。

*ノズルから空気が噴き出すことで落ち葉やちりなどを吹き飛ばす清掃用の機械のこと

シュナイダー:カメラマンとしていちばん苦労したのは、カメラが水に浸からないように注意することでしたね。ウォータ―スプリンクラーが常に動いていたので、カメラをラップで包んだり、傘でガードしながら撮影しました。私のお気に入りは、主人公が脱出のために筏をつくる屋上のシーンです。

ワイルド:実写パートは、役者も含めたった5人で撮影しています。信じられないかもしれませんが、この少人数のクルーで、すべてのシーンを3日間で撮影しています。

日本人キャストや歌手を起用した「日本描写」へのこだわり

––本作では、主人公を含め日本人のキャストが参加されています。キャスティングはどのように行われたのでしょうか?

シュナイダー:主演を務めたヘシキヒデトは、スイス・チューリッヒに住む日本人のダンサーであり、振付師です。ロバートの友人を介して知り合ったのですが、スイスで日本人の役者を見つけることは不可能に近いことだったので、本当にラッキーでしたね。電話口で登場する彼の妻役も同様です。声だけ出演するラジオパーソナリティ役については、オンラインプラットフォームで役者を探しました。

––漢字やひらがなが特徴的に使用されていますが、日本語への翻訳はどのようにされたのでしょうか?

シュナイダー:私の妻が東京生まれなので、劇中のオフィス内の廊下や小道具などの日本語は、すべて妻が翻訳しています。役者のセリフに関してはプロの通訳の方にお願いしました。

––日本語で歌われるエンディングの楽曲も、とてもユニークで印象的でした。制作プロセスについて教えてください。

ワイルド:とても楽しい制作プロセスでした。自分のサウンドアーカイブの中から、楽曲の基本構成となる荒々しいリズムとシンプルな楽器のリフレインを選び、これらを少しアレンジしたり、いくつかの楽器を自分で演奏したものを追加しました。

その後、11歳になる私の娘が突然ボーカルのメロディーを思いついたんです。そのメロディに仮歌用として意味のない言葉をあてて、ボーカリストをオンラインプラットフォームで探しました。実際に歌っているユウコはそこで見つけたんです。彼女は日本人のシンガーで、自身で詩も書いているので、彼女に楽曲のトラックと映画のストーリーを送り、数日後に歌詞が送られてきました。まさしく本作の感情や雰囲気を表現した、すばらしい歌詞だと思います。その後、彼女からボーカルトラックが送られてきたので、それをもとにファイナルミックスを行いました。

次ページ:水没する東京のイメージに込められた「傷つきやすさ」

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