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Sunday, May 15, 2022

日々の暮らしを書くことは、自分を肯定していくことだった。|まいにち酒ごはん日記|大平一枝/ツレヅレハナコ - 幻冬舎plus

文筆家・ツレヅレハナコさんの新刊『まいにち酒ごはん日記』は、インスタグラムに綴ってきた日々の記録をまとめた1冊です。コロナ禍を挟んで、国内外に頻繁に出かけていた日常から、家に籠って自炊の毎日に至るまで、振れ幅の大きかったここ数年の生活が綴られています。本書の刊行を記念して、同じく暮らしをテーマにした『ただしい暮らし、なんてなかった。』を上梓したエッセイスト・大平一枝さんとの対談を行いました。旧知の仲でもあるお二人が、「日々を綴ること」をテーマに語り合います。

*   *   *

書き手としては「地獄の」1冊

大平 えー、私、感想だけで止まらない感じ。

ツレヅレ わー、嬉しい。ありがとうございます。

大平 本の作りがまず、いちいちにくいなって。「インスタを書籍に」という企画自体はすごくシンプルなんだけど、そこに一工夫も二工夫もあって。すべてに小見出しが入ってるじゃない? いや、すごいの、全部同じ文字数で。「君は納豆汁を知っているか」とか。1日に何本ぐらい書いてたの?

ツレヅレ 100本は書いてますね。一気に書かないと同じような小見出しになっちゃうんですよ。

大平 ねえ。だからまあまあ地獄の本だなあって思いました。

ツレヅレ さすがお察しいただいて嬉しいです。地獄でした(笑)

大平 今日のテーマである「日々を綴ること」だけれど、ハナちゃんはもともとそこから始まった人ですよね。SNSで、みんなが自分の日常を発信するようになった時代と重なって、その先頭を走ってきた人だと思うんです。でも、「今日こんなものを食べました、こんなところに行きました」ってただ書いたら、「はいはい、よかったね」なんだけど、そんな風には思わせない技術がある。その技がこの一冊に詰まってるし、書き手としてこれまで歩いてきた道全部が想像できる。だから、何気なく読めるカジュアルな本なんだけれど、同じ文筆業者として、胸がいっぱいになりました。

ツレヅレ ありがとうございます。

大平 行きたいお店とか気になる調味料をメモしてるから、なかなか読み進めないのね。でも結局、ちょっとずつ読もうと思ったのに一気に読んじゃった。次のページをめくりたくなる、読者を惹きつける魅力がある本だなあと思いました。

ツレヅレ 本当に嬉しいです……!

今を勢いよく書き留める。
歳月を俯瞰して書く。

ツレヅレ 私はずっと大平さんのファンなんですけど、『ただしい暮らし、なんてなかった。』を読んで、今の大平さんのテーマは「物」じゃなくて、自分の暮らしなんだなあと。本書で繰り返し言われているのは、「今の自分がずっと続くと思わない。変わることを止めない」ということだと思うんです。私もまさに同じようなことを「あとがき」で書いているんですが、大平さんの気づき方は私とは全然重みが違うなって。家族との暮らしとか、何十年か経てきたものをあらためて俯瞰して、考えて、摘み取ったことを落とし込んでいるというか、スケールが大きいなと。

だから、今の楽しさを書き留めることも好きなんですが、もっと違うアプローチがあるんだなあというのを教えてもらった気持ちです。

大平 いやいや、でも私なんかより色んなことに気づくのが10年早いと思うよ。たとえば顔を出さないとかね。顔出しするかしないかって自分がどう見られるかってことじゃないですか。そこまでは私、考えが及ばなかったというか、自分を表現するので精いっぱいで。でも「ツレヅレハナコ」というペンネームにしても、顔を出さないことも、若い時から潔く決めてるよね。それによって余計なストレスを抱えないで済むと思うんです。

ツレヅレ 私の場合、普段のことをリアルに書いているので、プライベートとの領域を分けたいというのはありました。スーパーで見切り品買ってて、「あれハナコさんじゃない?」みたいなのはちょっと避けたいなと(笑)

大平 先を読む力がすごくあるよね。私、自分の暮らしについて、以前は色々と書いていたんだけれど、取材でとてもお世話になった作家の方に改めてお会いしたとき、「君はもう生活のことを書かないほうがいいよ。いつか嘘を書くことになるから」って言われたの。マーサ・スチュアートになっちゃうよって。
(※マーサ・スチュアート……自身のライフスタイルを元にビジネスを展開しているアメリカの女性実業家。インサイダー取引で有罪判決を受け服役したが、のちに復帰)

ツレヅレ えーーーー! どういう意味だったんでしょう?

大平 自分のことを書いていたらいつか、やってもいない掃除をやったとか、梅を漬けたとか、そういうことを書きかねないから人を書いた方がいいよ、ということだと解釈しています。その後「東京の台所」の連載を始めることになったときにご報告をしたら、「すごくいいじゃない。どんなものを書いても大平節が出るから、堂々と書いたらいい」と言ってくださって。以来10年間くらい自分の暮らしについて書くのはやめてたの。

(※東京の台所……東京に住む、さまざまな人の台所を取材した長寿連載。さりげない文章の中に、その人の人生が垣間見られる内容で、掲載と同時にPV数が跳ね上がることもしばしば)

台所の取材もそうだし、紙だったり昭和ことばだったり、「知る人がいないと忘れられてしまうこと」をテーマに書いてたんだけど、この本の元になった連載で、久しぶりにまた暮らしについて書かせていただくことになって。本が出来上がった時にその方に送ったの。

ツレヅレ ドキドキしますね。

大平 そうしたら、「よかったですよ。だけど気負わずにね」という意味の言葉を頂いて。そうか、自分のこと書かないってガチガチにならずにもうちょっと肩の力を抜いていいんだ、って、そう思ったんです。

自分の暮らしを書くことと
自己肯定感の関係

大平 以前は暮らしのことを書くとき、どこかがんじがらめになっていたというか、素敵に見せなきゃという気持ちがあったと思う。でもハナちゃんの書く文章って、素敵に見せようなんて思ってないのに、ちょっとした憧れを感じるというか、そういう力があるよね。

ツレヅレ 言い方が難しいんですけど、私、自分のことがずーっと好きなんですね。なんの根拠もないんですけど、自分がやってることはとても楽しいことだと思ってる。だからこの本に関しても、ヒントと言ったらおこがましいですけど、たとえば「平日の昼間、天気がよかったら瓶ビール持って公園行くと楽しいよ」だったり、こんなに楽しいことは皆さんもやった方がいいよ、というそんな気持ちで書いてます。

大平 そうか。自己肯定感だ。それはほんと大きいね。今その話を聞いて思ったけど、私は自己肯定感があまり高くないから、自分の暮らしについて良いことを書くにはだいぶ嘘つくことになるかもしれない、という恐怖があったのかも。でも、歳を重ねて、自分を好きで素敵に生きてる人達をいっぱい見てくると、そんなこだわることないなって思えるようになった。

ツレヅレ 私、中学卒業したあと高校には行かず、大検を取って進学したんですね。

大平 え!? そうだったの?

ツレヅレ そうなんですよ。学校がつまらなくて。自分で自分のことを好きだったら別に友達いなくてもいいか、なんて。今思うと「こら」って感じですけど。母がまたかなり個性的な人なので、私が行きたくないと言ったら、「えー」って、まあ一応言うじゃないですか。ただ、母は書家なんですが、とにかく娘には書道をやってほしいわけですよ。それで「代わりに書道学校に行けばいいのよ、3年間。高校行かなくても自分の腕一本で食べていけるんだから、いいじゃない」って言い始めて(笑)それで、全然やる気ないんだけど「そうする」って言ったんです。結局行かなくなって、アルバイト生活してたんですけどね。

大平 すごい。「東京の台所」に出てもらった時のお母さんのエピソードもよかったよね。書に夢中で、お友達が来てももてなしてくれないから、自分で歌舞伎揚げとCCレモンを買って、「お友達が来たら出してね」と言った話。

ツレヅレ そうそう。あれ実話ですからね。母は掃除ができない人でもあったんですが、なんで父はそんな母と結婚したんだろうと不思議で。それを父に聞いたら、「自分の世界観を持ってる人だから結婚したんだ。だから掃除なんてどうでもいい」って。

大平 すごく素敵。

ツレヅレ「自分を全力で認めてくれる人が一人でもいれば、絶対大丈夫」という関係をずーっと見てきたので、それにはすごく影響を受けていると思います。(後編に続く)

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