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Sunday, August 9, 2020

「ご主人」「奥さん」は避けたいが……配偶者をどう呼ぶか問題、国語辞典編纂者の「回答」 - 時事通信

 夫や妻、つまり配偶者をどう呼べばいいかという問題は、昔からあちこちで繰り返し論じられてきました。いろいろと複雑な問題ではあるのですが、その要点を言えば、「4つの言い方を回避するにはどうすればいいか」ということに尽きます。

 4つの言い方とは、すなわち「主人」と「家内」(以上、自分の配偶者)、そして、「ご主人」と「奥様」(以上、他人の配偶者)です。これに「旦那」「旦那様」が加わることもあります。

©iStock.com

「主人」も「家内」も、べつに回避しなくてもいいじゃないかと思われるかもしれません。それも一理あるので、そう思う人にとっては、話はここで終わりです。

 一方、「主人」は夫が中心であるように感じられる(「旦那」もいくぶんそう感じられる)、「家内」や「奥様」は家庭の中に押し込められている感じがする、という人もいます。

 相手も自分も特に気にしない場合ならともかく、相手か自分か、どちらかが引っかかりを感じるならば、別の自然な言い方を模索するのも必要なことです。今回は、その言い方を考えてみます。

 この問題は、大きく3つの場合に分けると論じやすくなります。1つめは、自分の配偶者を指す場合。2つめは、第三者の配偶者を指す場合。3つめは、目の前にいる相手の配偶者を指す場合です。

自分の配偶者は「夫」「妻」

 1つめの「自分の配偶者を指す場合」は、話が簡単です。「主人」「家内」の代わりに「夫」「妻」を使えばいいのです。

 配偶者の呼称問題に関しては、水本光美さんの最近の研究があります(『日本語とジェンダー』17号、2017年。こちらから読めます)。それによると、少し前までは、「主人」「家内」は自分の配偶者を指す呼び名のスタンダードでした。

 ところが、21世紀に入ってからは、「夫」「妻」を使う人が優勢になっています。自分の配偶者に限り、すでに「主人」「家内」は避けられているのです。

 もっとも、俳優でタレントの秋元才加さんは、ツイッターで次のように述べます。


 おっしゃるとおりで、気楽な友人同士で「夫は……」と言うのはやや硬いかもしれません。「彼は……」も自然だと思いますが、気取っていると感じる人もいるかも。

 でも、これは時と場合で使い分けることで解決できます。秋元さんは〈場所によっては〉〈人によっては〉と述べています。相手によって、「夫」と表現したほうがいい場合、「彼」と表現したほうがいい場合があるということです。

 いきなり「彼」だと違和感を持つ人に対しては、「私には夫がいますが、彼は……」のように、1回目は「夫」を使い、以後「彼」で通す手もあります。いくつか選択肢を用意しておいてはどうでしょう。

 

「主人」は「新用法」だった!?

 ところで、そもそも論として、「主人」は昔から一般家庭で使われてきたのかというと、必ずしもそうではないようです。

 遠藤織枝さんによると、妻が夫を指して「主人」と言うことが広まったのは、むしろ戦後で、昭和30年(1955年)以降のテレビのホームドラマに影響されたと言います(『朝日新聞』1988年5月31日付)。上流階級ではそれまでも「主人」を使っていましたが、その言い方を一般の人がまねするようになったんですね。家制度がなくなった戦後に、かえって「主人」が好まれたというのは皮肉です。

『日本国語大辞典』第2版を見ると、妻が夫を指す「主人」の例としては、庄野潤三の小説「道」(1962年)の一節が挙げられているだけです。たしかに、古い例はあまり多くなさそうです。

 一方、「主人」の呼称に反対する動きも、戦後に起こりました。1955年6月、約2000人が集まった第1回母親大会において、「『主人』と呼ばず『夫』と言おう」という呼びかけが採択されました。

 実は、この「夫」と言う呼称は、むしろ戦前に妻がよく使っていたものです。戦後、妻が「夫」に代わって「主人」と表現することが増え、その「新用法」に対して反対の主張が起こったというわけです。

 これが、今日に至る「『主人』是か非か」という論争の始まりです。単純に「主人」が古く、「夫」が新しいとは言えないのが面白いというか、複雑なところです。

第三者の配偶者を呼ぶには?

 さて、2つめの「第三者の配偶者を指す場合」。これは、書きことばでよく問題になります。

 報道では、ずいぶん前から、社会的地位にかかわらず、第三者の配偶者には「夫」「妻」を使うようになっています。たとえば、「A社長の妻・Bさん」のように。かつては、地位のある人の妻の呼称には「夫人」などの尊称も使われましたが、今では「夫」「妻」で定着し、違和感は薄れました。

 私たちが書く文章も、報道のことばに準じていいでしょう。「C先生の妻・Dさんは長年先生の研究に協力され……」で問題ありません。

「いや、違和感あるぞ」と思う人は、「夫人」を使いましょう。夫の尊称としては「夫君(ふくん)」も使えます。改まったスピーチに使う場合は、これに「ご」をつけて「ご夫君」「ご夫人」とすると丁寧です。「ご」は過剰だという意見もありますが、話しことばでは問題ないでしょう。

 困るのは日常会話です。第三者のうわさ話をしていて、「山田さんちのご主人は今度栄転だって」などと言う場合。ここでは、「ご夫君」「ご夫人」はさすがにおかしい。

「ここはもう『ご主人』『奥さん』でいいや」という気もするし、「そもそも、人の家庭のうわさ話は控えるのがいい」とも思うのですが、この解決方法については、次の3つめの答えを参考にしてもらいましょう。

 

難問「目の前にいる相手の配偶者の呼び方」の答え

 3つめの答え、すなわち、目の前にいる相手の配偶者の呼び方は簡単ではありません。相手に向かって「あなたの夫は元気ですか」「妻によろしく」とも言えません。「ご夫君」「ご夫人」もおかしい。実際には、やはり「ご主人」「奥さん」が多いでしょうね。

「それでいい」という人は、それでいいんです。繰り返しになりますが、この文章は、あえて「ご主人」「奥さん」を避けるにはどうしたらいいかを考えています。

 私の場合、よく知らない相手に使うのは「ご家族」です。たとえば、おみやげを渡すとき、「奥さんとお召し上がりください」ではなく「ご家族でお召し上がりください」と総称を使います。

 実際の社会生活では、そもそも相手の家族構成も分からない場合が普通です。相手は独身かもしれないし、配偶者と離別、死別しているかもしれない。「ご家族」なら、ペットも含まれるし、カバーする範囲が広いのです。

 相手とある程度親しくなったら、あまりこなれない言い方を使っても許してくれるでしょう。たとえば、「おつれあい」という表現。初対面の相手には使いにくいけれど、お互い気心が知れていれば、このような耳慣れない表現でも受け止めてもらえるはずです。

「夫さん」「妻さん」もあり

 特に親しい間柄ならば、さらに冒険して、「夫さん」「妻さん」もありえます。

 最近、SNSの文章を見ていると、この「夫さん」が出てくるんですね。「夫さんの病気が回復しますように」「夫さん、いいこと言いますね」など。先の水本光美さんの論文でも、このことは指摘されています。妻のことはさしずめ「妻さん」ですが、私が見るかぎり、例は「夫さん」より少ないようです。

「夫さん」「妻さん」は、公的な場ではまだ使いにくいことばです。でも、SNSの書きことばとしては根付きつつあるし、話しことばでも、親しい仲間同士の会話ならば、冗談半分に使えそうです。人の家庭のうわさ話をするときだって、「山田さんちの夫さん」と言えばいいのです。

 配偶者の呼称の問題は、「ひとつだけの言い方を選ばなければならない」と考えると、答えが出ません。改まった場合に使う言い方、初対面の人に使う言い方、気心の知れた同士の言い方など、分けて考えると、問題が簡単になります。時と場合に応じて、たくさんの選択肢を用意しつつ、うまく使い分けるのがいいでしょう。

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