オーストリアを拠点にした、アンナ・ミュラー(Anna Müller)とポール・ウォールナー(Paul Wallner)によるエレクトリック・デュオ、HVOB。これまで4枚のスタジオ・アルバムと1枚のライブ・アルバムを発表し、過去には<FUJI ROCK FESTIVAL>にも出演。Spotifyのリスナー数は現時点(2022年4月)で50万人を超え、「Lowkey Tech」「Deep Listening」といった人気プレイリストにセレクトされることもしばしば。
<Cercle>や<Boiler Room>といった人気プラットフォーム出演時の再生回数はどちらも200万を優に超え、ルーツにレディオヘッド(Radiohead)といったロック・バンドを挙げているのもどこか頷ける、緻密な展開と内省的な詩情を持ち合わせた音楽性が幅広い層から支持を集めている。そんな、いわゆるキャリアと人気のあるHVOBではあるが、意外なことにその情報はあまり多くない。その理由について「HVOBが何であるかを知ってもらうことが重要なんです。それは音楽についてであって、私たちについてではありません」と過去のインタビューで話していたが、今回幸運なことに最新作『TOO』のリリース、およびそのツアーを控え忙しくしているであろうHVOBに、メールで話を聞くことができた。
これまでで最も静謐でいて激しい『TOO』について、そして未だ謎多きHVOBについて、アンナは語ってくれている。
HVOB – Let’s Keep This Quiet(Official Documentary)
INTERVIEW:HVOB
━━初めまして。お話を伺えることを光栄に思います。早速ですが、今回リリースする新作『TOO』は6ヶ月間に渡ってリリースしていったものをまとめた形のアルバムですね。
Anna Müller(以下、Anna) 実験的にやってみました。どのように評価されるか分かりませんでしたが、今までにないリリース方法で私たちの作品を届けたかったんです。また、今はアルバム全体を通して聴かれることがほとんどないので、1曲1曲に時間と空間を与えて、人々に届けたかったのです。その結果、多くの人に受け入れてもらうことができ、とてもありがたいです。
━━本作『TOO』のコンセプトは“内面と外面の帰属を求める世代の心に捧げられたもの”とのことですが、このようなコンセプトはどこから着想を得たものですか?
Anna 『TOO』は、私たちの内面と外面の帰属意識の探求に捧げられた作品です。このアルバムは、自分と他人の期待が対立する人生の中で、その期待に応えられないという感覚、そしてその期待から自身を解放しようとする新たな試みをとらえています。
━━冒頭の“Bruise”は激しいオープニングから徐々にエモーショナルに変化していき、傷跡について歌う、緊迫した幕開けです。その激しさにクラブのフロアに漂う熱を思い出しますが、あなた方にとってクラブやフェスティバルといった現場はどのような存在なのでしょうか? その捉え方はコロナの影響で変化したりしましたか?
Anna ミュージシャンにとって、クラブやフェスティバルはホームのようなものですが、ここ数年の間は欠けていました。やはり、失ってから改めて物事のありがたさがわかるようになりますね。また演奏できることが本当に嬉しいし、当分の間は続けられることを祈っています。
HVOB – Bruise
━━2曲目“Capture Casa”は打って変わってアトモスフェリックなオープニングで、歌詞を読むとタイトル・トラックかのように感じます。『TOO』という、とても抽象的でシンプルな言葉をタイトルにした理由を教えてください。
Anna “Capture Casa”という曲は、アルバムタイトルに込められたアイデアをよく表しています。そのテーマは、あれでもない、これでもない、必要以上(“Too”much)、あるいは必要以下(“Too”little)になってしまうのではないか、という恐怖です。このメッセージはすべてのトラックを通じて、それぞれのトラックで異なるテーマで展開されています。アルバム全曲で語られる思いなので、『TOO』というタイトルになっています。
━━今のところ、私のお気に入りのトラックは“2:16”で、幻想的なアンビエントからゆっくりと、そして大胆に展開していくのがとても心地よいです。このような多元的な表現はどのように生まれるのでしょうか?
Anna “2:16”は私が中心になって書き上げました。ポールと私は音楽の好みが違い、最終的にはいつも2人の音を組み合わせてHVOBのサウンドにするんです。でも、今回は例外的に私の曲なので、より私の好みが際立っているのかもしれませんね。私は映画音楽を聴くのも作るのも好きなのですが、この曲にはそれが表れていると思います。
━━過去のインタビューなどを読むとあなた方はルーツにレディオヘッド、コラボレーションしたいアーティストにザ・ナショナル(The National)を挙げていたりとロック・バンドの影響が濃いのではないかと思いました。個人的には特にサウンドの展開や緻密さ、内省的な歌詞などに共通点を感じます。
Anna 私たちはまだ彼らと比べられるほどのアーティストではないです。特にレディオヘッドはとても偉大で素晴らしいバンドです。
━━あなた方と共鳴していると感じるアーティストはいらっしゃいますか? ミュージシャン以外でも、同じ方向を見ている方などがいらっしゃいましたら教えてください。
Anna エレクトロニック・ミュージックはあまり聴かないのですが、最近よく聴くものだとスキンシェイプ(Skinshape)、ブロークン・ソーシャル・シーン(Broken Social Scene)、タイラー・ブルクハルト(Tyler Burkhart)、横田進(Susumu Yokota)、スティーヴ・ハイエット(Steve Hiett)などです。
HVOB – Eyes Alive
━━あなた方は、初期から一貫して、ある程度の匿名性を保って活動しているように思います。一方でポップ・ミュージックの世界はより実存主義的になっているようにも感じています。このような流れをあなた方はどのように感じていますか?
Anna HVOBは音楽がすべてだということを、最初からはっきりさせたかったんです。ポールと私は、人前に出るのは得意ではないけれど、隠れるのも嫌なんです。もちろん、完全に身を引くことはできないし、年々難しくなっています。でも、隠れすぎてその面が注目されすぎないよう、うまくバランスをとっています。
━━アンナさんは過去のインタビューで政治についてのニュースを日々追っていると話していました。ツアーで世界中を飛び回り、たくさんの人々と交流しているあなた方の場合は特に、政治的な問題からときに深刻な影響を受けると思います。直近ではロシアとウクライナの問題が世界中の人々の心に暗い影を落としていますね。
Anna 想像を絶するほどひどい状況なので、ウクライナでのコンサートのことをよく思い出します。私たちは常に人々のために演奏し、決して政権のために演奏することはありません。とはいえ、私たちは非常に思慮深く、常にその国の政治状況や、私たちや現地の人々がそれについてどう感じているかを見極めようと努めています。
━━あなた方はこれまでDJ、ドラマー、シンガー/ピアニストといったエレクトロニック・ミュージックの分野では珍しい編成でライブをしたりしていましたね。本作のツアーがもうすぐはじまりますが、どのようなステージになる予定ですか?
Anna いまポールと私は光の演出に凝ったショーに取り組んでいて、このツアーのすべての音符に対応したライトを自分たちでプログラミングしているんです。とても大変な作業ですが、音楽と光がうまく組み合わさると、とても楽しいです。もちろん、ドラマーと一緒にまたツアーに出るし、今回は今までになかった、たくさんのレーザーも使う予定です。
HVOB live at Copa del Sol in Careyes, Mexico for Cercle
━━日本での公演が現時点でアナウンスされていないのがとても残念ですが、過去には<フジロック>も含め何度か日本のステージに立っています。日本でのライブで印象に残っていることはありますか?
Anna もちろん、このツアー中に再び日本を訪れることも考えています。アジアでの日程はもう少し後に発表します。ヨーロッパと雰囲気が全く違って、日本でのコンサートはとても楽しいですし、思い出すと懐かしいです。<フジロック>はもちろんのこと、<MUTEK>も素晴らしかったです。独特で特別なエネルギーが渦巻いていました。その場所にいた方々にとても感謝しています。
━━ありがとうございました! 世界のどこかでお会いできるのを楽しみにしています!
Anna こちらこそありがとうございます! 日本でのコンサートで会えるのを楽しみにしています!
Text by Daiki Takaku
Translation by Rintaro MIyazaki
HVOB
4枚のスタジオ・アルバムと1枚のライブ・アルバムに続き、エレクトロニック・デュオのHVOBは、6枚目のアルバム『TOO』をリリースする。『TOO』は、怒りに満ち、優しく、傷つきやすく、決然とした、ある世代の人生の探求の記録で、コンセプト、内容、サウンドにおいて極限を追求したものだ。デュオは、この5枚目のスタジオ・アルバムで、いくつかのシングルを先行リリースした後にアルバム全体をリリースする、という伝統を破り、新しい方向性を打ち出した。『TOO』に収録されている8曲は、個別に、そして散発的にリリースされる。そして、アルバムは6ヶ月の間に最終的な全体へと成長するのだ。『TOO』は、内面と外面の帰属を求める世代の心境に捧げられたものだ。自分自身と他人の期待の二項対立にある人生、その期待に応えられないという感覚、そして、その期待から自分を解放しようとする新たな試み等を捉えている。また、Anna MüllerとPaul Wallnerは、出発と後退、決意と自信喪失の間の両極端な空間を、サウンド面で探求している。
INFORMATION
HVOB『TOO』
2022.04.08(金)
品番:PIASR5117CDJ【国内流通仕様】
定価:¥2,400+税
発売元:ビッグ・ナッシング/ウルトラ・ヴァイヴ
Tracklist
1. Bruise
2. Capture Casa
3. 2:16
4. Eyes Alive
5. Kid Anthem
6. The Lack Of You
7. Gluttony
8. A Piece Of Me
からの記事と詳細 ( 謎多きエレクトリック・デュオ・HVOBの最も静謐で激しい最新作『TOO』にせまる - Qetic )
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