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Monday, February 10, 2020

訪韓200回超ブロガーにその流儀を学んだ(毎日新聞) - Yahoo!ニュース

 2階建て刑務所の雑居房は、広さ8畳ほど。踏みしめるたび、木の床はきしむ。壁にかかった温度計によるとマイナス1度で、寒さが身に染みる。金網で仕切られた面会室や、鉄条網付きの高い塀、監視塔。ただし、受刑者の姿はどこを探してもいない。【外信部副部長・坂口裕彦】

 それどころか、刑務所に入るや、真っ先に目に飛び込んでくるのは、壁に張られた数々の映画のパンフレット。青い囚人服に身を包んだ若い女性2人組は「この施設、とても楽しいですよ」と、目を輝かせて、デジタルカメラで自分たちを撮影している。しばらくすると、団体客のおじさんやおばさんまで入ってきた。

 本来、重々しい雰囲気のはずの刑務所は、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)映えにもってこい。こういうイメージのギャップが、好奇心をくすぐるのだ。

 韓国・全羅北道益山(イクサン)市にある「益山刑務所セット場」は、廃校になった小学校の分校を2005年に改築して作られた。韓国で唯一となる刑務所の撮影用セットだ。これまで200本以上の映画が撮られた。普段は無料で公開され、「囚人体験」もできる。

 首都ソウルから高速鉄道KTXで約1時間20分、さらに路線バスに揺られて50分。朝鮮半島の古代王国のひとつで、日本にも大きな影響を与えた百済の遺跡も多く残る地方へ足を延ばしたのは、ここで撮影された13年公開の韓国映画に感動したからだ。

 「7番房の奇跡」。知的年齢が6歳の父ヨングと2人で暮らす、しっかり者の6歳の娘イェスンだが、ヨングが殺人容疑で逮捕、収監されてしまう――。韓国人の友人は「きっと涙が止まりませんから」。そんなわけはと、いざオンラインで鑑賞すると、本当にその通りになってしまった。

 せっかく韓国にいるのだから、名作が生まれた現場を見に行こう。思い立ったが吉日。そんな気分になったのは、出かける約1週間前に、200回超の訪韓歴を誇る「ブロガー ビョン」こと、小暮真琴(こぐれ・まこと)さん(58)=川崎市在住=に「韓国の魅力は、地方にあり」と、大いに薫陶を受けたからだ。

 ◇18年にはついに「全国行脚」を達成

 スマートフォンのカメラで、料理の写真をパチリ。メニューや値段、味付け。わからないことがあれば、すかさず店員に尋ねる。「ネアカ」な性格で、ぐいぐいと情報を引き出す取材力は驚くべきものだった。

 首都ソウルを代表する繁華街・明洞(ミョンドン)から、ぶらりと歩ける「乙支路(ウルチロ)3街」は、庶民的な風情が残る街。レトロな雰囲気が漂う冷麺屋「乙支麺屋」(ウルチミョンオク)の2階で、ゆで豚と冷麺、ビールとマッコリも味わいながら、小暮さんは、自らの流儀を笑顔で解き明かした。

 「今日のお店は、なんと言っても冷麺のすっきりしたスープが絶品ですね。食リポは、そんなに難しくないです。あんな味だった、ここがおいしかったと素直につづればいいだけですから。歴史的なことを書く方が難しいし、どうしても時間がかかります。写真は何枚も撮ります。忘れたら、後で取り返しがつかないので。とにかく毎日、書き続ける。記録したものは残るけど、記憶はどうしても薄れてしまいますから。なぜ、毎日できるのかって? そこは、根性です」

 韓流ドラマに魅せられて、初めて訪韓したのは06年。今回で実に202回目という小暮さんの話が、がぜん熱を帯びたのが「地方めぐり」の楽しさだ。18年10月には、韓国にある全162市郡を訪れる「全国行脚」をついに達成し、最近は月3回ペースだという。その証拠に、毎日更新するブログのタイトルも「全州(チョンジュ)にひとめぼれ! 大邱(テグ)が恋しくて!」と、ソウルではなく地方都市の名前を冠している。09~13年は全州を中心に、13年以降は大邱を中心に訪問したからだという。

 「私も最初は、ソウルばかりを訪れていました。でも、好きなミュージカルの劇場公演は、平日は夜が多い。昼間は暇でしょ。だから、まずはソウルの近場へ足を延ばし、そこから行動範囲を広げていきました。それぞれの土地に、歴史の息遣いを感じる場所や、それぞれの名産品があるので、奥が深い。日本統治時代の建物も、各地にたくさん残っています。何より、自分がこれまで知らなかったことを知るのって楽しいじゃないですか」

 日韓関係は、元徴用工問題や輸出規制強化などを巡る騒動で、「1965年の国交正常化以来で最悪」と言われるけれど、小暮さんの好奇心は衰えない。

 「おばあさん1人でやっているような田舎の食堂に入っても、うれしいことに温かくもてなしてくれます。どうやって打ち解けるかですか? 基本的には、アンニョンハセヨ(こんにちは)、マシイッソッソヨ(おいしかったです)の二つだけで大丈夫。私も、普段、夫に料理を作るからわかるのですが、おいしかったと言われて、不愉快になる人はまずいませんから」

 この日の次なる取材先は、「大福マート」という間口が2間もない、路地先にある雑貨屋。缶詰やスナック菓子、なぜか冷蔵庫でさかさまに置かれ冷やされた缶ビール。視界の前、左、そして右。あらゆる商品がぐんと迫ってくるかのようだ。

 お店で買った酒や乾きものなどを、その場で味わう「角打ち」ができる。ここでは瓶ビールに、ハムとねぎ、玉ねぎを炒めて、ケチャップをかけた素朴なおつまみ。「下町のおじさんの社交場」で、小暮さんは楽しげに、これがまた何とも、水を得た魚のように生き生きと溶け込むのだ。

 ◇自称「韓国地方旅プランナー」

 地理的にも近い日本と韓国は、少し変わりダネのテーマでも、まったく付き合いがなかった地方同士でもつながり、交流を広げるチャンスがまだ大いにある。「こんな細かいところに目をつけたのか」と、くすりと笑ってしまう小暮さんのブログや、SNS映えにはしゃいでいた「益山刑務所セット場」の観光客の姿を思い起こすと、そんな楽観的な考えが浮かんできた。

 たとえば、今回の取材で言えば、冷麺のスープ、「角打ち」のつまみ、ビールを逆さまに置く雑貨屋、刑務所の撮影セット……。SNSで簡単につながることができるデジタルな時代だからこそ、展開可能なテーマは無数にある。端から見れば、たわいないかもしれないが、当事者たちは本気そのもので語らずにはいられない小さな日韓交流の積み重ねは、隣人関係をほぐさないだろうか。

 さておき、雑貨屋「大福マート」の缶ビールは、なぜ冷蔵庫でさかさまに置かれていたのか? 小暮さんは後日のブログで、小さな謎を見事に解き明かしていた。「缶が全部さかさまに置かれているのは、(手にとるお客さんの)飲み口にほこりがたまるのを防ぐため。オモニ(店のお母さん)の細かい心遣いに感動」。夜が更けて、こちらが先に店を出た後も、小暮さんは残っていたから、きっとオモニと気安く語り合い、聞き出したのだろう。別の日には、SNSでメッセージも届いた。「先日行った乙支麺屋、早ければ3月に撤去されてしまうようです」

 「記者」と「ブロガー」。とりあえずの肩書は違うけども、情報を集めて、文章や写真で発信するのは同じ。こちらも記者の端くれとして、もっと奮起しないといけないと痛感させられた小暮さんの取材力。けれど、「韓国地方旅プランナー」を自称する小暮さんが、これからもフットワーク軽く、各地をめぐるであろうことは、とても頼もしく、うれしい。

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