発見、発掘、発信 まち歩きしませんか
[2021/01/05 10:00]
インスタグラムを使った情報摂取、情報収集、情報発信が老若男女を問わず、私たちのくらしに溶け込みつつある。スマートフォンを使って写真も記事もすぐに発信できる点はもちろんだが、すぐれた写真や記事をすぐ目にできること、発信者や発信された情報と気軽につながれることはとても楽しい。
情報発信のポイントは、受け手が思わず見たくなるような目の付け所があるか、にある。誰を標的にするかが重要だ。さらにもう一つが作者だ。誰がどんな写真を撮り、どんな記事を書いて発信しているかが受け手にとっての注目の的である。
一昨年の秋から、私の勤務する大学の学生たちが県の太田行政県税事務所と連携し、インスタグラムを使って地域の魅力を発信している。「太田キラリ発見Girls」というグループである。学生たちは太田のまちのキラリと光る魅力に注目し、訪問先選びから、お店のご主人やまちのキーマンへの取材に至るまで、毎回情熱を込めて記事と写真を発信している。
おいしいお店や由緒ある史跡の写真に記事を添えることは、発信者のセンスが問われる仕事であり簡単ではない。ともすれば及び腰になりそうなものだが、学生たちは自分たちの若い感性でのびのびと地域の魅力を紹介しており、実に頼もしい。
そんな学生たちが先日、太田市世良田地区の八坂神社を訪れ、猫のご朱印状を入手した。猫をまつる神社は全国にいくつもあるが、世良田地区は猫絵で知られる場所である。猫絵はネズミ除けの御利益があるとされて、江戸時代、猫を飼いたくても飼えないお客にネズミ除けのお札代わりに珍重された。ところが、さらに、世良田地区には別の猫絵の由緒がある。
猫絵の作者が他ならぬ殿様だったことだ。武門の棟梁(とうりょう)である新田の血筋を引く岩松家の殿様が描く猫絵だから、強い効能が期待されたのだろう。4代にわたり殿様たちが猫絵を描いたところ飛ぶように売れ、家格は高いが貧しい台所を大いに潤した。
養蚕が盛んな上州にあって蚕を食べ尽くすネズミを退治することは死活問題だ。上州に「猫絵」の手を借りたいほどの市場があり、しかも絵師が殿様という御利益があるとなれば、その猫絵が売れないわけはない。こうして目の付け所と作者の値打ちの両方を兼ね備えた「猫絵の殿様」の4代目に当たる俊純は、明治維新後に男爵に叙せられた。
群馬は街道筋の宿場町が多い。昔は徒歩か駕籠(かご)で行き来されていたから、まち歩きにはぴったりだ。歴史に思いをはせながら、まちを歩いて、見て食べるのもよし、写真を撮って発信するもよし。スマートフォンやカメラを片手に、あなたもまち歩きしてみませんか。
関東学園大准教授 山根聡之(太田市東別所町)
【略歴】やまね・さとゆき 2016年に関東学園大講師、18年から現職。専門は経済学史・社会思想史。和歌山市出身。一橋大大学院博士後期課程単位取得退学。博士(経済学)。
2021/1/5掲載
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