【動画】ASKA、TV出演時の“口パク疑惑”は「気分の良いものではない(笑)」 コロナ禍のツアー完走に万感
■盟友である故・菅沼孝三氏の娘・SATOKOとのツアー
2022年1月からスタートしたツアーは、全13公演を無事に終え、グランドフィナーレとなる4月13日の東京国際フォーラムでの公演が映像として形になった。
「新型コロナウイルスの脅威というのは、もう人類の、世界の出来事だと思うのですが、そんな中こういう形でライブを残すことができたことには、とても大きな意味があると思っています。きっといつか、『あのときはこうだったね』という会話がされると思うのですが、そのときこの映像が未来の人たちにどのように語られるのか…非常に興味がありますね」。
これまで40年以上アーティスト活動を行ってきたASKA。どのライブも「すべて特別な思いを持ってステージに上がってきた」と語るが、今回のツアーには、もうひとつ大きな思いがあった。それが長年ツアーを共にしてきたドラマーの菅沼孝三氏の死だ。
「盟友だった孝三があっちにいっちゃいまいしたからね。その孝三が昔から楽屋に連れてきていた娘のSATOKO。僕は彼女が4歳のときから知っているのですが、お父さんの遺言で今回のツアーで僕のサポートをしてくれた。僕らにとっては長い付き合いのなか、SATOKOが自分のバンドの一員としてツアーに参加してくれたんです。長くひとつのことをやっていると、こういうことも起こるんだなとしみじみ感じました」。
ASKAにとってバンドメンバーは家族のような存在。ファンもそのことを知っているだけに、メンバー紹介では感極まるファンも多かったのではないだろうか。
「僕は自分のツアーパフォーマンスのなかで、“メンバー紹介をちゃんと行う”ということはずっと決めていることなんです。ツアーを一緒に回るメンバーは家族も同然。お客さんにもちゃんと紹介したい。それをずっとやってきたので、観客も孝三の出来事というのは、とてもつらいことだったと思うんです。それだけに、今回のツアーでSATOKOがドラマーとして参加してくれたことは、とても大きな出来事でした。SATOKOとも『お前の親父は最後にすごい演出をしていったな』って話したんですよ」。
■好きなアーティストの楽曲は、ぜひお金を出して買ってほしい
全23曲のセットリストには、CHAGE and ASKAの楽曲や、他のアーティストに提供した楽曲などバラエティに富んでいる。
「僕は音楽活動40年を迎えた頃から、新しいアルバムを作って、その楽曲を持ってツアーをすることは、“いま自分がやることじゃない”という気がしていたんです。ファンにどれだけ喜んでもらえるか…ということを考えると、より多くの時代の楽曲を入れた方がいいんじゃないかなと思っています」。
こうした背景には、音楽が“売れない”という現状があるという。
「いまはもうみんなサブスクじゃないですか。利率の低いあのシステムでヒットしても、アーティストは新しい音楽を生み出す活動が十分にできないんです。僕らはたまたま音楽の歴史のなか、ミュージックビジネスが大成功していた80年代90年代にブレイクした世代なんです。大きな恩恵を受けたからこそ、音楽制作の大切さも身にしみている。サブスクじゃアーティストは救われない。だから声を大きくして言っているのが“好きなアーティストの楽曲は買ってください”ということなんです」。
■番組出演時にSNSで話題になった“口パク疑惑”の真相
こうした思いを広めたいというASKA。その意味で、テレビというメディアに出演することは、幅広い世代へメッセージを届けるきっかけになる。一方で、予期せぬ広がりをもたらすこともある。
「テレビに頻繁には出ないというのは、ずっと前から決めていたことではあるんですが、2年前にテレビ東京で放送された『テレ東音楽祭2020秋』という番組に出演させてもらったときにすごく大きな反響がありました。その後『ASKA 75分スペシャル』という特番もできたんですよ。テレビというものは、出演するたびになにかが起こるんです」。
さらに今年9月に放送されたフジテレビ『FNSラフ&ミュージック2022~歌と笑いの祭典~』に出演した際には、並外れた歌唱力と声量の成果、“口パク疑惑”がSNS上に投稿されるという事態も起きた。
「いまの若い人たちは、テレビでは口パクで歌うという先入観が植え付けられてしまっているんですよね。僕もそう言われたから、ツイッターで認めましたよ。43年間口パクしていたって…(笑)」。
もちろんASKAならではのジョークなのだが、冗談が通じない可能性もある。
「それに関しては、今回僕のツイートに対して、どこのメディアも触ってこなかったんですね(笑)。『ASKA口パク認める!』みたいな記事はひとつもなかった。書いてほしかったんですけどね(笑)。SNSの反響に反応した僕も悪いのですが、あまり口パク、口パクと書かれると、いい気分はしないですからね(笑)」。
それもASKAの高い歌唱能力からくること。マイクから離れて歌うことで、もしかして……と思われてしまうということもあるようだ。
「あれもちゃんと計算して、どこの角度でどう声を当てればマイクが拾ってくれるというのは長年の経験で得たことというか、僕の癖なんですよね。でもいまの若い子は口パクに見えたんでしょうね(笑)。それはそれで褒め言葉として受け取っておきます」。
■光GENJIの「パラダイス銀河」を披露…「はしゃぎすぎて声が枯れた」
ASKAの歌い方はまさに個性と言える。個性的なアーティストが数多くいたのが80年代。
「コンピューターがギリギリ出始めたか…くらいの時代なので、メロディと歌詞でしか勝負できなかった。純粋に楽曲の良さと、あとはアーティストの個性。それでしか差別化は図れなかったんですよね」。
その当時の曲は、いまでも盛り上がる。今回の映像でも、ASKAが作詩・作曲を手掛け、光GENJIが歌った「パラダイス銀河」をアンコールでASKAが披露し、会場のボルテージが上がっていた。
「あの曲はちょっと飛ばし過ぎましたね。はしゃぎすぎて声が枯れてしまいました(笑)。とにかく、とても楽しいですね。コロナ禍だったから、みんなマスクして席に座って聴いてくださっていましたが、もしもスタンディングオーケーで声も出せる状態だったら、めちゃくちゃ盛り上がっていたと思います。そういう客席も見てみたかったですね」。
しかし、コロナ禍だからこそ、観客の真摯な思いも伝わった。
「とにかく拍手が長いんですよ。僕がしゃべりだすまでずっと拍手をしてくださるんです。声が出せないぶん、唯一のオーディエンスの気持ちが拍手になるわけじゃないですか。いまの時代だからこそですよね。いいパフォーマンスが見たいという期待の表れが拍手になる。それを聞いて、僕らも思いが溢れてくる。こんな状況にも関わらず、会場に足を運んでくださるわけです。家族や同僚から何か言われたり、気を使いながら来てくれたかもしれない。精神的に相当な労力と葛藤があるのが想像できますよね。僕らはいつでも最高のものを届けなければいけないという思いになる」。
パフォーマンスをする側、そして受け取る側。どちらも熱い思いがあるからこそ、実現したライブ。だからこそ、その瞬間が詰め込まれた本作は「かけがえのないもの」として輝きを増す。ASKAは「僕への興味がない人でも、ひとつの作品として観てほしい」と力説する。それだけこのライブには、人が生きること、前に進むための“活力”が詰まっている。
取材・文/磯部正和
写真/MitsuruYamazaki
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