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Thursday, December 10, 2020

エンタメノート:NHK問題を語る前に 松田浩さんが残した「提言」 - 毎日新聞 - 毎日新聞

「にほんごであそぼ」の公式サイト

 NHKのEテレ、「にほんごであそぼ」は2003年開始だから、いつのまにか長寿番組。朝、早起きして時間がある時に見ると、大人でもとても楽しい(放送時間は平日午前6時35分、再放送は午後5時)。

 出演していた浪曲師の国本武春さんは15年の暮れに亡くなったけれど、武春さんの「一番弟子」、うなりやベベンは、今でも元気な姿を見せてくれるのがありがたい。

 今週のテーマは「しったかぶり」。立川志の輔さんが、古典落語の演目「転失気(てんしき)」をアレンジして、おおたか静流さんと子どもたちの「しったかぶり」の歌と共に登場している。昔も今も、しったかぶりは損をするということが、子どもにも楽しく伝わるだろう。

 11日は、「遅かりし由良之助『仮名手本忠臣蔵』由来」もあるので、忠臣蔵ファンとしては早起きして見ないといけない。録画すればいいのだが。もはや現代は忠臣蔵を知らない人がたくさん。地上波で忠臣蔵をやってくれる機会もほとんどなくなったので、この企画は貴重だ。

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 今年8月に亡くなった劇作家の山崎正和さんに、ずいぶん前にインタビューした。山口県の下関支局にいて、山崎さんが東亜大学(同県下関市)の学長に就任した頃のこと。今はすっかり定着したEテレの愛称も当時はまだなくて「教育テレビ」と呼んでいた。

 当時、若いだけが取り柄の記者は、教育についてなんとかして何かを聞き出そうとしたのだと思う。ほとんど覚えていないのだが、この一言だけはしっかり記憶している。

 「教育テレビがなかったら、日本の教育や文化はどうなっていたかわからない」と話されていたのを。

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 携帯電話料金を巡る話題が続く中で、次は受信料などNHK改革に目が向こうとしている。「Eテレ売却論」まで飛び出したようだけれど、ネット上では、教育テレビ、Eテレで育ち、Eテレが大好きになった子どもたちと元子どもたち、子どもを持つ親が、これほどたくさんいることに正直驚いた。少なくともEテレが好きな人はかなりいる。チコちゃん好きも多いだろう。でも、ニュース番組の公平性に疑問を持つ人も少なくない。

 NHKは国営ではなく公共放送。戦前の反省から自主、自立の公共放送として戦後再出発した。正確にいえば、再出発したはずだった。

 1947~52年に放送された(当時はまだテレビはない)ラジオ番組「日曜娯楽版」の話を永六輔さんからずいぶん聞いた。番組にネタを投稿したのがきっかけで、永さんは放送作家への道を進むことになる。

松田浩「NHK 新版~危機に立つ公共放送」(岩波新書)=油井雅和撮影

 「日曜娯楽版」では政治風刺も取り上げられ、人気番組となる。松田浩さんの「NHK 新版~危機に立つ公共放送」(岩波新書・14年)によると、例えば……。

 A 標語を書くのに紙がないんでね、古いポスターの裏を使ったのはわかるがね。ちょっと驚いたね

 B ホホウ

 A 民主主義! って書いてあるウラにだね

 B 何て書いてあった?

 A 八紘一宇(はっこういちう)って書いてあったよ

 現代人にはわかりにくいかもしれないけれど、軍国主義が民主主義へとコロッと変わったことへの風刺なのだろう。

 だが、松田さんの本によると、政治風刺への政府・与党の圧力が強まり、番組は打ち切りとなった。

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NHK放送センター=嶋野雅明撮影

 松田さんは日本経済新聞の放送担当記者、立命館大学教授などを務め、戦後の放送史を追い続けた。そのテーマは、NHKの「自主・自立」の危機であり、それは民主主義の危機でもあるという点。この新書も旧版のサブタイトルは「問われる公共放送」だった。危機感は増している。

 受信料はいくらが妥当なのか、安ければ安いほどいいのか、EテレはNHKにはいらないのか、などを考える前に、「NHKって今、どうなっているのか。この先、どうなっていくべきなのか」をわかりやすく解説し提言しているのが松田さんの本だ。

 松田さんは今年11月、90歳で亡くなった。この本はいわば松田さんの遺言でもある。

 あとがきで松田さんはこう書いている。

 「政府の介入に余地を残した制度や制度的仕組みの問題とともに、それを温存させてきた日本の市民社会の脆弱(ぜいじゃく)さと未成熟性を、いかに草の根からの市民の力で克服するかが、いま問われているのである」

 NHKの問題に興味がある方にまず読んでほしい。【油井雅和】

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