Pages

Wednesday, October 6, 2021

『TOEM』レビュー:北欧生まれの小さな宝石 - IGN Japan

よくできた小規模なゲームをプレイすると、きれいな包装の小包や、ビンのなかのテラリウムを連想します。小さな箱のなかにキラキラとした世界が詰まっているような、そんな感覚を覚えるのです。そういう作品をプレイすることはわたしにとって何よりも幸せなことであり、また、あなたにとっても幸せなことだと思います。今回レビューする『TOEM』は、そのような幸せな体験をさせてくれるゲームのひとつです。

『TOEM』はスウェーデンを本拠地とするスタジオ、Something We Madeによって開発/販売されているアドベンチャーゲームです。あなたはおばあちゃんに見送られて、光の現象「トーエム」を見に行くために、持たされたカメラとともに山岳地帯へと向かいます。

道中の街や森には、助けを必要としている人々がたくさんいます。あなたは古いカメラを使って彼らの依頼を解決して、コミュニティへの貢献によって得たバス乗車券を使ってバスを乗り継いでいき、「トーエム」の待つ山頂を目指します。

新しくゲームをスタートしたあなたは、まず世界のスタイルに驚くでしょう。小さなペーパークラフトのジオラマのような見下ろし型の3Dマップは本作の大きな魅力です。すっきりした線、並び立つ木々や建物、古いスプライトFPSのような2Dのキャラクター、そして色は一貫してグレースケール。コミック・ストリップの世界をそのまま3Dにしたような、かわいい世界です。

全編グレースケールということで、見た目の退屈さがあるのではないかしら、と少し心配しましたが、それは全くの杞憂で、むしろ他のゲームよりもゴージャスに感じたくらいでした。多くの場面でマップ全体を大きく横に回転できることが大きいです。マウスドラッグで、ぐりんぐりんと大きくマップを動かして、様々な視点から世界を眺めるのはとても楽しい時間です。このビジュアルのスタイルはあらゆる面で機能しており、これ以外のものは考えれれない、というくらいにマッチしています。

おばあちゃんに持たされたカメラは、全てのゲームプレイの核であり、本作最もユニークな部分です。プレイ中の、ほとんど全ての瞬間であなたは古いカメラを覗いて好きに写真を撮ることができます。あなたは次のエリアを訪れるために、このカメラを使って人々のお願いを解決し、コミュニティ貢献スタンプを貯め、バスの乗車券を手に入れます。

お願いは主に、「あれが見たい、写真を撮ってきてくれないか」というものですが、いくつかのお願いにはちょっとしたヒネリがあります。例えば、かくれんぼや、嵐のなかの船の誘導や、おばけとのデート(とてもかわいい)などです。そういった変わったものでない、単に写真を撮って見せるだけのものも、あっち行って撮って帰って終わり、というものばかりだけでなく、ひと手間挟んだり、ちょっと考えたりする必要のあるものが多く、カジュアルながらも物足りなさは全くありません。

依頼を解決すると、コミュニティへの貢献のしるしにスタンプが押されます。これをエリアごとに一定数貯めると、それが次のエリアへのバスの乗車券となります。エリアごとに必要なスタンプ数は全体の依頼の半分くらいで、しっかり探索して人々の話を聞いていれば問題なく集まる数です。一部の依頼にわかりにくいものがありましたが(何回かオンラインのガイドを探しました)、そういう難しいもの、わからないものをいくつか飛ばしても余裕があります。

それと、カメラ自体がとても楽しいです。おもしろいのは、ファインダーを覗いた瞬間に、プレイヤーの視点がトップダウンから一人称視点に、つまりプレイヤーキャラの見ている景色が映し出されるところです。これは初めてカメラを使用したときびっくりしてしまいました。

カメラをフィーチャーした『ウムランギ ジェネレーション』や、その他フォトモードを実装した近年の大作ゲームのような、フィルターやレンズ交換などの要素はないですが、本作のカメラでは三脚と笑えるクラクションが使えます(セルフィーも撮れます)。被写体も、依頼に関係がある・なしに関わらず、思わずカメラを向けてしまいたくなるものがたくさんあります。スキーをする小鳥、ふわふわの犬、マンホールのそばの亀とピザ(カワバンガ!)などです。

灰色の小さな箱庭のなかにひしめく生物や無生物にカメラを向け、難しいことを考えずにシャッターを押し、アルバムのなかで見返すのはとても楽しいです。

アートもゲームプレイもかわいく、よくできていますが、それ以上に素晴らしいのが、びっくりするくらいに行き届いたユーザーフレンドリーです。よく使う機能は画面の任意地点でのマウスドラッグですぐアクセスできます。依頼を管理するコミュニティカードは誰からのどんな依頼がどれだけあるのかすぐにわかります。カメラ操作のズームは滑らかです。マップの回転もストレスなくできます。

全体的にきびきびとしていて、スムーズで、触っていて気持ちいいのです。プレイヤーの操作に対するゲーム側からのレスポンスが楽しいのです。ひいき無しで、近年触ったゲームのなかで最も快適で気持ちいいと思えるくらいのものでした。この気持ちよさは、ゲームプレイの大きな推進力となっています。

本作は日本向けにはSwitch版とPCが配信されており、わたしはPCのキーボード&マウスでプレイしましたが、本作はどちらかというとマウス操作で最も快適さを感じられるようにデザインされているように見えます。グレースケールのマップも、大画面のほうが見栄えがいいでしょう。しかしSwitchでのプレイがオモシロさを減衰させるとも全く思えず、それはそれで本作の小ぢんまりとした雰囲気にマッチした楽しいプレイとなるでしょう。

サウンドデザインも卓越しています。効果音なら、移動先をクリックしたときの音。スニーカーで歩くキュッキュッという音。UI系統の操作時のクリック音。とくに、撮影の後、アルバム保存をキャンセルしたときの、定規を弾いたような音(ビィィィン……)はとても愛らしく、人生のなかでもっとも好感度の高い「キャンセル」効果音だと言えるほどです。

環境音も、漫画的なビジュアルからは予想できない、驚くほどクリアでハイファイなものです。もしかしたらこれは生音を使っているのではないでしょうか?水の流れる音も虫の鳴き声も本当に心地よいです。

ポータブルカセットプレイヤー「ハイキングレディ」(ウォークマンのかわいいパロディ)から流れるサウンドトラックもすてきです。シーンや心情よりも場所にかかった、どちらかというとBGMに徹したような音楽ですが、灰色の世界に音楽的な色彩を加えてくれる、のんびりとしたゲームプレイにマッチしたものです。あなたはきっと、ゲーム中のベンチに座って、目を閉じて、このサウンドトラックと環境音との溶け合いに浸っていたくなるでしょう。私がそうしたように。

本作のなかに、ゲームプレイのオモシロさを大きく損なうような部分はありませんが、全体の出来の良さに比べると、キャラクターや会話テキストはやや淡白に見えます。キャラクターデザインはみなかわいく、依頼内容もユニークで楽しいですが、みな一度きり、使い捨てのちょっとした出会いでしかありません。少なくとも、プレイした後に、あのキャラクターからのあの言葉が忘れられない、というふうに思い返すことはないでしょう。

とはいえ、あなたの旅の(ゲームの)目的はあくまで山頂への旅で、カメラでの人助けは手段でしかなく、深さの欠如よりも軽快な楽しさのほうが勝るので、たいした問題でもないでしょう。しかし、例えば『A Short Hike』のような、似たコンセプトのゲームで、かつ少ないテキストでちょっとした感動を与えてくれるものと比べると明確に弱いと感じます。

しかし、そういった薄味さにもかかわらず、ゲームの結末は心の底から満足できるものでした。結局は「ちょっとアレを見に行ってきなさいよ」という小さな旅で、物語的な盛り上がりはほとんど皆無なのですが、それでも間違いなく満足するものです。クライマックスのあと、撮った写真たちを眺めて短い旅路を思い返しながら見るエンドロールは思わずジーンときました。

『TOEM』は要素の多い作品ではありません。早解きすれば2時間、素直にマイペースにやれば3時間、隅々まで楽しもうとすれば4時間くらいの、ちょっとした日帰りの旅です。ストーリーもゲームプレイもカジュアルで、たとえばメンタルヘルスや現実の困難などを扱ったり、重く激しい物語のうねりも全くありません。しかしビンのなかに入った紙製のテラリウムのような、小さく完結した世界は、終わってしばらくしたあとも「そういえばあんなにかわいいゲームをやったなぁ」と思い出したくなるものです。

老若男女、ゲームの腕前にかかわらず、多くの人間がこの旅を楽しむことができるだろう、と心から思える、まさしく全ての人間に開かれたゲームだと思います。

北欧の小さなスタジオによる小さくてかわいいゲーム『TOEM』は、紙製のテラリウムのような作品です。ユニークなアート、カメラのメカニック、徹底されたユーザーフレンドリー、クリアで軽快なサウンドデザイン。すべての要素が高い精度で機能して混じり合っています。趣味やスキルにかかわらず、多くの人間が快適で楽しい時間を過ごし、小さな旅のすばらしい結末に感動できるでしょう。

Adblock test (Why?)


からの記事と詳細 ( 『TOEM』レビュー:北欧生まれの小さな宝石 - IGN Japan )
https://ift.tt/3leHW6a

No comments:

Post a Comment