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Monday, June 13, 2022

椋原健太がアパレルに就職した理由 サッカーと同じ情熱で働ける場所:山陽新聞デジタル|さんデジ - 山陽新聞デジタル

「一番楽しい時間はデニムを見るとき」と話す筆者

「一番楽しい時間はデニムを見るとき」と話す筆者


 今は岡山県にあるアパレル会社、アン・ドゥーで働いています。仕事内容はズボン、アウターなどの企画から、製造会社などとの交渉、品質管理、返品処理、出荷前の検査の準備など、幅広くやらせていただいています。

 やっと1シーズンを過ごしました。何となくですが、1年の流れなどは把握できたかなと思います。当然ですが上司の方とは歴然とした差があり、愕然(がくぜん)としますが、それでも会社の方々が優しく接してくださるおかげで毎日楽しく仕事をさせていただいています。

 サッカーから完全に離れたわけではありません。コラムの執筆活動、実況中継の解説、ファジアーノ岡山特命広報大使、アン・ドゥーがファジアーノ岡山のスポンサーをしていることなど、とてもいい距離感でサッカーと関われていることも、充実した生活を送れている要因だと思っています。

自分探し


 なぜ、引退後にアパレル関係に就職したかと言いますと、一度きりの人生、サッカー以外のことにもチャレンジしたいと強く思ったからです。

 引退を決めサッカーから離れる決断をした時は、もちろん、たくさんの不安がありました。自分には何ができるのか、何がしたいのか、どんなことが好きなのか。今までサッカーに人生のすべてを捧げてきました。それと同じくらい情熱を捧げられるものは何なのか。いろいろな方にアドバイスをいただいたり、たくさんの本を読んだり、答えのない自分探しを永遠としていました。

 そんな中たどり着いた答えがありました。幼い頃からサッカーしかしてこなかった自分は、どの仕事を選択しようと一からのスタートだということです。ならば、働きたい人と、働きたい場所で、働きたいことをしようと思いました。

 その場所がファジアーノの現役時代にスポンサー訪問したアン・ドゥーでした。商品の素晴らしさやこだわり、そして何より社長の情熱にとても心を動かされました。もちろん、この時は引退後にここで働けるなんて思ってもいませんでした。

 ただ、漠然とこの会社ならサッカー同様に情熱をもって働けるだろなと強く思っていました。実際に、「アン・ドゥーで働きたい。面接だけでもお願いできないでしょうか?」とお願いしたところ、すぐに面接をしていただき、その場でアパレル経験のない自分を採用していただきました。社長をはじめ社員の方々に、優しく迎えてくださって本当に感謝しています。

 人生何が起きるか、どんな出会いがあるか分かりません。どの瞬間も決して無駄にしてはいけないと強く思います。僕のようにスポンサー訪問先が就職先になることだってあるのだと、現役プレーヤーたちに伝えたいですし、もし「プロサッカー選手を雇いたい!」と思ったスポンサー企業がありましたら、選手が会社に来た際には勧誘するのもありかもしれないですね(笑)。

 社会人経験がほぼないので、最初は苦労するかもしれません。しかし目標を達成するために仲間と協力すること、努力し続けること、ちょっとやそっとのことではやられない強いメンタル。数々の修羅場をくぐりぬけ、多くの成功と失敗の体験があるスポーツ選手はいろいろな企業で活躍することができるのではないかと思います。

 自分自身もプロサッカー選手の異業種でのセカンドキャリアの成功体験となるよう、今後も頑張り続けます。

未知の世界へ


 サッカーとかけ離れた職場で具体的に何が大変かと言いますと、本当にすべてです! 分かることはなにもないです!

 アルバイトもしたことがない自分にとって、本当にすべてが未知の世界でした。本業のアパレルの仕事はおろか、パソコン、メール、社会人としてのマナー、宅急便の送り方、何一つ当たり前のことが分かりません。

 しかし、ポジティブに考えれば新しいことばかりで、サッカーしかしてこなかった自分にとって、刺激にあふれていてとても楽しいのです。今まで私生活でいろいろなことを我慢してきたこと、耐えてきたことに比べれば大丈夫です。

 体重維持のため無理やりご飯も食べなくていい。ドーピングを気にせず食べたいものを食べられる。けがにおびえなくていい。毎日チームメイトと競い合わなくていい。いろいろな人に批判されなくていい。週末の試合で闘争心をむき出しにして闘わなくていい。そしてなにより、一番は一日一日クビにおびえなくていいことですね(笑)。その我慢や苦しみに比べれば、大抵のことは乗り切れます。

 この業界に入って僕が一番楽しい時間はデニムを見るときです。もちろん、良い意味で“変態”と言ってもいいくらいデニムを愛している上司の方々には負けますが、僕も知れば知るほどその魅力にはまっています。

 デニムは、時代の流れによってトレンドの色、形などが変わりますが、常にファッション界の中心にあって、皆さんの生活でも切っても切り離せないものです。加工一つで見え方が変わり、はきやすい工夫なども細部に工夫されています。そして、デニムの加工、形、色など、人それぞれ好みがあり、感性が違うので、これといった正解がないところはサッカーとよく似ているなと思います。

 これまでは街中で靴底の減り方、膝の角度を見て、けがしそうだなと考え、筋肉の付き方を見ては、何のスポーツをしているのかと想像していました。今では何をはいているか、どんな形、どんな色がはやっているのかなどを見るようになりました。

環境問題


 もう一つ、この業界に入って興味を持ったことがあります。衣服が与える地球環境への影響です。入社して社長からまず勧められた映画「ザ・トゥルー・コスト~ファストファッション 真の代償~」(2015年、米国)はとても衝撃的でした。ファッション業界が抱える闇をとてもリアルに描いており、目をつむりたくなるような映像ばかりでした。皆さんにもぜひ見ていただきたい映画です。

 環境省の「ファッションと環境による調査」(2020年)などによると、日本では手放される衣服が約100万トン。そこから、リユースやリサイクルなどされ、実際に捨てられる衣服は約50万トンもあります。1日あたり1300トンもの衣服が燃やされたり、埋められたりされる計算です。一方、洋服を作り、私たちに届くまでに使われる二酸化炭素は服1着あたりペットボトル(500ミリリットル)約255本分、使われる水の量は浴槽約11杯分だそうです。

 この現実を受け止め、この業界に入ったからには絶対に環境に対して取り組んでいかなければなりません。環境に対して取り組んでいるファッションブランドをいろいろ勉強してきましたが、その中で僕が一番心に刺さった言葉を一つ紹介させてください。

 「友達の家に遊びに行ったら、帰るときには最低限、来た時と同じくらいの状態に片づけて帰るでしょう?」

 バルセロナのファッションデザイナーが言った言葉です。子どもでも分かるくらいとてもシンプルな言葉ですが、とても深く考えさせられました。自分も地球に生まれて、そしていつか死にます。今の状況からして、劇的に地球環境を良くすることはなかなか難しいかもしれません。せめて自分が死ぬときには、生まれた時と同じくらいの地球環境にしなくてはいけないし、それがこれからこの世界で生きていく子どもたちにとっても、未来が明るいと思うからです。

 たくさんの人に、環境にも配慮した素敵なデニムを提供できるようにこれからも日々努力していきます。

椋原健太(むくはら・けんた)FC東京の育成組織から08年、トップチームに昇格。その後、C大阪、広島で活躍した。ファジアーノには18年から3年間在籍した後、現役を退いた。Jリーグ通算は226試合出場3得点。現在はファジアーノのスポンサーで、カジュアル衣料製造のアン・ドゥー(岡山市)に勤務している。

 このコラムは、ファジアーノ岡山特命広報大使の椋原さんと赤嶺さんの二人が共同で執筆します。

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